「部署で代々使っている品質管理のテンプレートを開いたら、FDIST という見慣れない関数が入っていた」
「新しい関数に直そうとして F.DIST に書き換えたら、p値が0.94になってしまった」
Excel の F分布まわりで、こんな場面に出くわしたことはありませんか。
FDIST・F.DIST.RT・F.DIST の3つは、名前が似ているだけで返す値がまったく違います。
やっかいなのは、取り違えてもエラーが出ないこと。
数式は静かに計算を終え、レポートの「有意差あり」と「有意差なし」だけがひっくり返ります。
この記事では、まず「あなたが今やりたいこと」から使う関数を選べる逆引き表を先に出します。
そのうえで引数の意味、分散分析やF検定でp値を出して判定するまでの手順を追いかけましょう。
最後に、エラーが出るケースと「エラーは出ないのに値が変」なケースの切り分け方もまとめました。
ExcelのFDIST・F.DIST.RT・F.DIST — 結局どれを使えばいい?
結論から言ってしまいます。
検定のp値がほしいなら、FDIST か F.DIST.RT のどちらかです。
名前が一番よく似ている F.DIST は、返す値が別物。
ここを取り違えるのが、F分布まわりで最も多い事故です。
Excel の F分布関数は旧名と新名がまざっているので、余計にややこしく見えますよね。
まずは「やりたいこと」から引ける表で、自分が使うべき関数を確定させましょう。
やりたいこと別・逆引き早見表
| やりたいこと | 旧関数 | 新関数 | 返る値/取り違えたときの症状 |
|---|---|---|---|
| 検定のp値がほしい(右側確率) | FDIST | F.DIST.RT | そのF値より大きい値が出る確率。分散分析・F検定の判定はこれ |
| 左側の累積確率がほしい | (なし) | F.DIST(…, TRUE) | そのF値以下になる確率。p値と取り違えると 0.05 が 0.95 に逆転 |
| 分布の形(山の高さ)を知りたい | (なし) | F.DIST(…, FALSE) | 確率密度。確率ではないので、判定に使うと結論が変わる |
| p値から臨界値を逆算したい | FINV | F.INV.RT | 右側確率からF値を求める。FDISTと入出力が逆 |
| 2つのデータ範囲から一発でp値 | FTEST | F.TEST | 両側p値。F値を自分で計算しなくてよい |
用語を1つだけ先に整理しておきます。
右側確率とは「観測したF値より大きい値が偶然で出る確率」のこと。
これがそのままp値(差が偶然で起こる確率)になります。
分散分析やF検定では、F値が大きいほど「偶然では説明しにくい」と判断します。
だから確率を見るのは分布の右側。
FDIST は、この右側確率をダイレクトに返してくれる関数です。
後継の F.DIST.RT もまったく同じ値を返します。
詳しい仕様は ExcelのF.DIST.RT関数の使い方 にまとめました。
FDISTは互換性関数として今も使える
FDIST(読み方: エフ・ディスト)は、F分布の右側確率を返す互換性関数です。
互換性関数とは、新しい関数に置き換わったあとも、古いブックのために残されている関数のこと。
「F」は統計学者ロナルド・フィッシャーにちなんだF分布、「DIST」は Distribution(分布)の略です。
名前の由来を知っておくと、DIST が付く関数は「分布にまつわる値を返す仲間」だと見当がつきますよ。
対応バージョン: FDIST と F.DIST.RT は Microsoft 365 で利用できます。Excel 2024 / 2021 / 2019 / 2016 も公式の対応表に載っています。FDIST はあくまで互換性のために残された関数という位置づけ。Microsoft は「将来のバージョンで利用できなくなる可能性がある」と案内しています。ただし廃止の時期は明言されていません。
ここで大事なのは、FDIST は今も普通に動くという点です。
古いテンプレートを開いて FDIST を見つけても、慌てて直す必要はありません。
Microsoft の案内は「新しい関数の使用を検討してください」という推奨です。
「使えなくなりました」という通知ではないんです。
返ってくる値も F.DIST.RT とまったく同じ。
この点はあとで実数を並べて確かめます。
FDIST でできることを、あらためて整理しておきましょう。
- 分散分析(ANOVA)で計算したF値から、p値を一発で求める
- 2つの母集団の分散が等しいかを調べるF検定でp値を計算する
- 回帰分析のF統計量から、モデル全体の有意性を判定する
- 教科書のF分布表を引かずに、任意のF値・自由度の右側確率を直接出す
- 古いブックの計算結果を、そのままの数式で再現する
要するに「F値を渡せば確率が返る電卓」。
統計の理論を細かく理解していなくても、判定に必要な数字はこれ1本で手に入ります。
FDIST → F.DIST に置き換えると結果がひっくり返る
さて、ここが本記事で一番お伝えしたいところ。
「新しい関数に直そう」と思って FDIST を F.DIST に書き換えると、結果が正反対になります。
同じ引数を4つの書き方に渡して、返る値を比べてみましょう。
F値4.0、自由度1(分子側)が2、自由度2(分母側)が10のケースです。
=FDIST(4.0, 2, 10) → 0.052922
=F.DIST.RT(4.0, 2, 10) → 0.052922
=F.DIST(4.0, 2, 10, TRUE) → 0.947078
=F.DIST(4.0, 2, 10, FALSE) → 0.029401
| 数式 | 結果 | 何の値か |
|---|---|---|
=FDIST(4.0, 2, 10) | 0.052922 | 右側確率(p値)。これが正解 |
=F.DIST.RT(4.0, 2, 10) | 0.052922 | 同上。FDISTと完全に一致する |
=F.DIST(4.0, 2, 10, TRUE) | 0.947078 | 左側累積確率。p値の裏返し |
=F.DIST(4.0, 2, 10, FALSE) | 0.029401 | 確率密度(分布の山の高さ)。確率ではない |
右側と左側を足すと 0.052922 + 0.947078 = 1.000000 になります。
つまり F.DIST の TRUE は、FDIST の結果を1から引いた値。
同じ検定なのに、p値が 0.053 から 0.947 に化けます。
これはまだ気づきやすいミスです。
0.947 という値を見れば「さすがに変だ」と立ち止まれますよね。
本当に怖いのは第4引数を FALSE にしたケース。
返ってくる 0.029401 は、いかにも「2.9%のp値」に見える小さな数字です。
しかし正しいp値は 0.052922 で、有意水準(判定の基準値)5%を上回っています。
つまり本来は「有意差があるとはいえない」という結論。
ところが確率密度の 0.029401 を p値と誤読すると、どうなるでしょうか。
「5%未満だから有意差あり」という真逆のレポートができあがります。
しかも数字の見た目には何の違和感もありません。
WARNING
FDISTの正しい置き換え先は F.DIST.RT だけです。末尾のRTは Right Tail(右側の裾)の略。F.DISTは名前が近いだけの別関数で、等価な置き換えにはなりません。
それぞれの詳しい挙動は ExcelのF.DIST関数の使い方 で確認できます。
旧↔新の書き換え対応表
F分布まわりの互換性関数は3つあります。
どれも引数の数と並び順が同じなので、関数名を差し替えるだけで移行できます。
| 旧関数 | 新関数 | 返る値 |
|---|---|---|
=FDIST(x, 自由度1, 自由度2) | =F.DIST.RT(x, 自由度1, 自由度2) | 右側確率(p値) |
=FINV(p, 自由度1, 自由度2) | =F.INV.RT(p, 自由度1, 自由度2) | 右側確率から逆算したF値 |
=FTEST(範囲1, 範囲2) | =F.TEST(範囲1, 範囲2) | 2標本F検定の両側p値 |
FINV は「p値 → F値」を求める逆方向の関数で、FDIST とちょうど対になります。
使い方は ExcelのFINV関数の使い方 にまとめました。
新しい名前は、末尾を見れば意味がわかるようになっています。.RT が付けば右側、付かなければ左側。
この命名ルールを知っているだけで、置き換えミスはかなり減らせるはずです。
新旧の名前を見比べると、設計思想の違いがはっきりします。
旧名の FDIST は「F分布の確率」としか言っておらず、右側なのか左側なのかが読み取れません。
一方の F.DIST.RT は「F分布・確率・右側」と3つの情報が名前に入っています。
だからこそ、旧名からの置き換えでは名前に含まれていない情報を自分で補う必要があります。FDIST が返しているのは右側確率。
その事実を知らずに F.DIST を選ぶと、名前が近いぶん気づきにくい間違いになるんです。
新規はF.DIST.RT・既存ブックは触らない、の判断基準
「じゃあ結局、今あるFDISTは直すべきなの?」という疑問が残りますよね。
判断基準はシンプルに2つだけです。
これから新しく数式を作るなら F.DIST.RT を使う
- Microsoft が公式に新関数の使用を推奨している
- 関数名から「右側」だと読み取れるので、レビューする人にも意図が伝わる
- F.DIST・F.INV・F.INV.RT・F.TEST と命名ルールが揃っていて覚えやすい
すでに動いているブックの FDIST は触らない
- 返す値は F.DIST.RT と完全に同じなので、直しても数字は1ミリも変わらない
- 数式を書き換えると、検証担当者やテンプレート管理者の再確認が必要になる
- 置換ミスで
F.DISTを選んでしまうと、前述のとおり結論が逆転する
つまりリスクだけあってリターンがない書き換えは避ける、という発想です。
どうしても統一したいなら、保守や改訂のタイミングでまとめて対応しましょう。
手順と注意点は記事の後半で解説します。
なお、Google スプレッドシートにも同名の FDIST 関数があります。
互換性関数のとらえ方が少し違うので、両方の環境を行き来する人は注意が必要。
細かい違いは スプレッドシートのFDIST関数の使い方 で確認してみてください。
書き方と引数 ―― =FDIST(x, 自由度1, 自由度2)
使う関数が決まったら、次は書き方。
FDIST は引数が3つだけの、とてもシンプルな関数です。
=FDIST(x, 自由度1, 自由度2)
カッコの中に、評価したいF値と2つの自由度をカンマで区切って並べます。
後継の F.DIST.RT もまったく同じ書き方。
だから移行するときは関数名を置き換えるだけで済むわけです。
引数3つの意味(分子=群間、分母=群内)
| 引数 | 必須/任意 | 説明 |
|---|---|---|
| x | 必須 | 評価したいF値(検定統計量)。0以上の数値を指定する |
| 自由度1 | 必須 | 分子側の自由度。1以上の整数を指定する |
| 自由度2 | 必須 | 分母側の自由度。1以上の整数を指定する |
3つとも省略できません。
1つでも抜けるとエラーになります。
自由度(データの個数から、計算に使った制約の数を引いた値)は、2つの意味を取り違えやすいポイント。
順番を覚えるコツは「F値を計算した割り算と同じ順」です。
- 自由度1 = F値の分子に使ったほうの自由度(分散分析なら群間、回帰なら説明変数の数)
- 自由度2 = F値の分母に使ったほうの自由度(分散分析なら群内・誤差、回帰なら残差)
F値そのものが「分子の平均平方 ÷ 分母の平均平方」で求まります。
平均平方とは、ばらつきの合計(平方和)を自由度で割った値のこと。
その割り算で上に置いた側が自由度1、下に置いた側が自由度2。
この対応さえ守れば迷いません。
TIP
自由度に小数を指定した場合、整数部分だけが使われます。
たとえば 4.7 と書いても、内部では 4 として計算されるということ。
はじめから整数で指定するのが安全です。
「右側確率」とは何か(p値そのもの)
FDIST が返すのは、F分布の右側確率です。
言葉だけだと硬いので、2つ並べて整理しましょう。
- 右側確率: 指定したF値より大きい値が出る確率。FDIST と F.DIST.RT が返す値
- 左側確率: 指定したF値以下になる確率。1から右側確率を引いた値
両者を足すと、ぴったり1になります。
自由度4と20でF値が1.0のケースで確かめてみましょう。
=FDIST(1, 4, 20) → 0.430682
=F.DIST(1, 4, 20, TRUE) → 0.569318
0.430682 + 0.569318 = 1.000000。
きれいに1です。
F値が1に近いということは、分子と分母のばらつきが同じくらいということ。
「差があるとはとても言えない」状態なので、p値も 0.43 と大きくなります。
検定で見たいのは「観測したF値と同じか、それより大きい値が偶然で出る確率」ですよね。
だから右側確率を使います。
FDIST の結果は、そのまま検定のp値として読めます。
では左側確率はいつ使うのでしょうか。
主な出番は、分布のグラフを描くときや、累積の割合を求めたいときです。
検定の判定に左側を使う場面は、ほとんどありません。
にもかかわらず F.DIST の第4引数に TRUE を指定して左側を取ってしまう事故が絶えないんです。
「検定なら右側」とだけ覚えておけば、まず間違えません。
自由度の指定を間違えると別の値になる
自由度の取り違えが怖いのは、エラーが出ないからです。
自由度1と自由度2を逆に入れても、数式は普通に計算を終えます。
返ってくるのは、それらしい顔をした別の小数。
どれくらい値が動くのか、F値がほぼ同じ3つのケースで見てみましょう。
| 数式 | F値 | 自由度1 / 自由度2 | 結果(右側確率) |
|---|---|---|---|
=FDIST(2.7, 15, 15) | 2.7 | 15 / 15 | 0.031768 |
=FDIST(2.85, 4, 20) | 2.85 | 4 / 20 | 0.050891 |
=FDIST(3, 3, 10) | 3.0 | 3 / 10 | 0.081747 |
F値は 2.7・2.85・3.0 とほとんど変わりません。
それでも右側確率は 0.032 から 0.082 まで、2.5倍以上に開きます。
しかも一番上だけが5%未満、下2つは5%超。
F値がほぼ同じでも、自由度が違えば有意と非有意は入れ替わるわけです。
地味ですが、確実な対策があります。
自由度は数式に直接書かず、セルに書き出しておくこと。
数式は =FDIST(F値のセル, 自由度1のセル, 自由度2のセル) のように参照で組みます。
数字を直接書くより、あとから見直しやすくなりますよ。
分散分析・F検定・回帰分析でp値を出して判定する
ここからが実務編です。
FDIST は「F値を入れたらp値が返る」だけの関数なので、難しいのはむしろその前後。
前半はF値と自由度を正しく用意すること。
後半は、返ってきたp値をどう読むかです。
順番に見ていきましょう。
この章で扱う3つの場面は、どれも「ばらつきの比」を見ている点で共通しています。
- 分散分析: 群間のばらつき ÷ 群内のばらつき
- F検定: 大きいほうの分散 ÷ 小さいほうの分散
- 回帰分析: モデルで説明できたばらつき ÷ 説明しきれなかったばらつき
どの場面でも、FDIST に渡すのはF値と2つの自由度だけ。
使い方そのものは共通なので、違いは自由度の作り方に絞って覚えれば十分です。
分散分析表からp値を出す3ステップ(一元配置ANOVA)
分散分析(3つ以上のグループの平均に差があるかを調べる手法。ANOVA とも呼びます)から始めます。
分析ツールが使える環境なら、p値まで自動で出ることもあります。
とはいえ、F値だけが手元にある場面も多いですよね。
3本の製造ラインで不良率を比較したとしましょう。
検査数はラインごとに5個・4個・4個で、合計13個です。
分散分析表の見方を先に補足しておきます。
群間はラインどうしの差によるばらつき、群内(誤差)は同じライン内のばらつき。
この2つを比べて「ライン間の差のほうが大きいか」を判定するのが分散分析、というわけです。
集計した結果、分散分析表は次のようになりました。
| 変動要因 | 平方和 | 自由度 | 平均平方 |
|---|---|---|---|
| 群間 | 24.0 | 2 | 12.0 |
| 群内(誤差) | 30.0 | 10 | 3.0 |
| 合計 | 54.0 | 12 | — |
ステップ1: F値を計算する
F値は「群間の平均平方 ÷ 群内の平均平方」で求めます。
=12.0 / 3.0
結果は 4.0 です。
ステップ2: 自由度を確認する
自由度1は群間の 2、自由度2は群内の 10。
分散分析表の「自由度」列をそのまま読めば済みます。
群間の自由度はグループ数から1を引いた値。
3ラインなので 3 − 1 = 2 ですね。
ステップ3: FDISTでp値を出す
=FDIST(4.0, 2, 10)
結果は 0.052922(約5.29%)です。
有意水準5%と比べると、わずかに上回っています。
したがって結論は「3本のラインで不良率に有意な差があるとはいえない」。
惜しい数字ですが、5%を超えている以上は有意差ありと書けません。
このあたりの読み方を次の見出しで詰めていきます。
出したp値をどう読むか(有意水準0.05との比較)
p値を出したあと、多くの人がつまずくのがここ。
判定ルールそのものは1行で終わります。
FDIST の結果 < 有意水準(ふつう 0.05)なら、帰無仮説を棄却する。
用語を補っておきます。
有意水準は「これ以下なら偶然では説明できないと見なす」という基準値のこと。
帰無仮説は「差がない」という仮の前提で、これを棄却できたときに初めて「差がある」と言えます。
実際の数値で並べると、境目のシビアさがよくわかります。
| FDISTの結果 | 5%との関係 | 結論 |
|---|---|---|
| 0.031768 | 下回る | 差があるといえる(有意) |
| 0.049332 | わずかに下回る | 差があるといえる(有意) |
| 0.050891 | わずかに上回る | 差があるとはいえない |
| 0.052922 | わずかに上回る | 差があるとはいえない |
| 0.430682 | 大きく上回る | 差があるとはいえない |
0.049332 と 0.050891 の差は、わずか 0.0016。
それでも結論は正反対になります。
たとえば自由度1が1、自由度2が10で、F値が5.0だったケース。
=FDIST(5, 1, 10)
結果は 0.049332 で、5%を下回ります。
こちらは「有意差あり」と書ける水準です。
先ほどの分散分析の 0.052922 とは、ほんの少ししか違いません。
それでも判定は逆。
だからこそ、p値は丸めずに小数第3位以上まで確認する習慣をつけてください。
なお両側検定の場合は、2倍したあとの値をこの表の左列に当てはめてください。
2倍の処理については、次の見出しで詳しく扱います。
TIP
レポートには、数値と基準と結論をセットで書きましょう。
「p = 0.053 で有意水準5%を上回ったため、有意差は認められなかった」という形です。
「ほぼ5%なので有意といえる」という書き方は統計的に成立しません。
2群の分散を比べるF検定は片側確率を2倍する
2つの母集団の分散が等しいかを調べるのがF検定です。
ここには、実務で最も多い落とし穴が潜んでいます。
製造機械AとBで部品サイズのばらつきを比べたとしましょう。
分散はそれぞれ 5.4 と 2.0、サンプルは各16個(自由度15)です。
F値は「大きい分散 ÷ 小さい分散」で計算します。
=5.4 / 2.0
F値は 2.7 になりました。
まず片側確率を出します。
=FDIST(2.7, 15, 15)
結果は 0.031768 です。
5%を下回っているので、このまま「有意差あり」と書きたくなりますよね。
ところが、ここが罠。
「AとBのばらつきが違うか」を調べる検定は両側検定です。
Aが大きいとも、Bが大きいとも、事前には決めていませんよね。
どちらに転ぶ可能性も残っている以上、確率は両側で見る必要があります。
=FDIST(2.7, 15, 15) * 2
結果は 0.063536(約6.35%)。
5%を上回ったので、正しい結論は「2つの分散に有意な差があるとはいえない」です。
| 見方 | 数式 | 結果 | 5%判定 |
|---|---|---|---|
| 片側(誤り) | =FDIST(2.7, 15, 15) | 0.031768 | 下回る → 有意 |
| 両側(正しい) | =FDIST(2.7, 15, 15) * 2 | 0.063536 | 上回る → 有意でない |
2倍するかどうかだけで、結論が完全に入れ替わりました。
FDIST は「片側の確率」しか返さないので、両側で判定したいときは自分で2倍する。
この一手間を忘れないでください。
TIP
2つのデータ範囲がそのまま手元にあるなら、F.TEST(旧: FTEST)を使うほうが確実です。
両側p値を一発で返してくれるので、2倍のかけ忘れが起きません。
詳しくは ExcelのF.TEST関数の使い方 をどうぞ。
回帰分析のF統計量から有意性を判定する
回帰分析では「モデル全体に説明力があるか」をF値で判定します。
分析結果の表に載っているF値と2つの自由度を、そのまま FDIST に渡すだけです。
自由度の作り方だけ押さえておきましょう。
- 自由度1 = 説明変数の数
- 自由度2 = サンプル数 − 説明変数の数 − 1
説明変数5個・サンプル26件の重回帰で、F値が 1.5 だったとします。
自由度2は 26 − 5 − 1 = 20 ですね。
=FDIST(1.5, 5, 20)
結果は 0.234287(約23.4%)。
5%を大きく上回っているので、「このモデルに説明力があるとはいえない」という判定になります。
変数を絞り込んだケースも見てみましょう。
説明変数4個・サンプル25件で、F値が 2.85 に改善したとします。
自由度2は 25 − 4 − 1 = 20 です。
=FDIST(2.85, 4, 20)
結果は 0.050891。
かなり惜しいところまで来ましたが、5%はまだ上回っています。
この段階でモデルを採用してはいけません。
サンプルを増やすか、説明変数の選び方を見直すのが次の一手になります。
有意水準5%の境目を自分で確かめる早見表
「自由度がこの組み合わせのとき、F値がいくつなら有意になるのか」を知りたい場面もありますよね。
教科書のF分布表をめくらなくても、FDIST を何度か叩けば境目は絞り込めます。
実際に計算した結果を並べました。
| 自由度1 / 自由度2 | F値 | FDISTの結果 | 5%との関係 |
|---|---|---|---|
| 1 / 10 | 5.0 | 0.049332 | わずかに下回る(有意) |
| 2 / 10 | 4.0 | 0.052922 | わずかに上回る(有意でない) |
| 3 / 10 | 3.0 | 0.081747 | 上回る(有意でない) |
| 4 / 20 | 1.0 | 0.430682 | 大きく上回る(有意でない) |
| 4 / 20 | 2.85 | 0.050891 | わずかに上回る(有意でない) |
| 5 / 20 | 1.5 | 0.234287 | 大きく上回る(有意でない) |
| 15 / 15 | 2.7 | 0.031768 | 下回る(片側では有意) |
この表から読み取れることが2つあります。
1つめは、分子の自由度が変われば5%の境目になるF値も変わること。
2つめは、5%の境目が思ったより「F値が大きいところ」にあること。
自由度1 / 10 なら、F値5.0でもまだギリギリなんです。
境目のF値そのものをズバリ知りたいときは、逆関数を使いましょう。
FINV(新関数では F.INV.RT)が「確率 → F値」を計算してくれます。
使い分けは ExcelのFINV関数の使い方 が参考になりますよ。
エラーと「値がおかしい」ときの切り分け
トラブルは2種類に分かれます。
エラー表示が出るケースと、エラーは出ないのに値が変なケース。
前者は原因がはっきりしているので、対処は簡単。
やっかいなのは後者のほうです。
両方まとめて整理しておきましょう。
エラーが出る場合(#NUM! / #VALUE! / #NAME?)
| エラー | 主な原因 | 対処 |
|---|---|---|
#NUM! | xに負の値を指定した | F分布は0以上のみ。xを0以上にする |
#NUM! | 自由度1または自由度2が1未満 | 自由度はどちらも1以上の整数にする |
#NUM! | 自由度が極端に大きい(10の10乗以上) | 現実的な自由度に修正する |
#VALUE! | 引数に数値以外を指定した | 参照先に文字列や空白が入っていないか確認 |
#NAME? | 関数名のスペルミス | FDIST は半角5文字。ピリオドは入らない |
#NAME? | カッコやカンマが全角 | 半角に入力し直す |
実際の挙動を並べると、こうなります。
=FDIST(-1, 4, 20) → #NUM!(xが負の値)
=FDIST(3, 0, 20) → #NUM!(自由度1が1未満)
=FDIST("abc", 4, 20) → #VALUE!(数値以外)
=FDST(3, 4, 20) → #NAME?(スペルミス)
#NAME? は、新関数と混ざったときにも起こりがち。FDIST にはピリオドが入らず、F.DIST.RT には2つ入ります。
「旧はピリオドなし、新はピリオドあり」と覚えておくとラクです。
セル参照で組んでいる場合、参照先が空白でも #VALUE! になることがあります。
自由度のセルが未入力のまま数式だけ先に作った、というパターンですね。
エラーは出ないが結果が変な場合
こちらが本命です。
FDIST は引数の形式さえ合っていれば、意味が間違っていても計算を通してしまいます。
| 症状 | 疑うポイント |
|---|---|
| p値が異様に大きい(0.4以上など) | F値が小さすぎる。平均平方の割り算を分子・分母とも再確認 |
| p値が0.9台になった | F.DIST(…, TRUE) を使っていないか。左側確率が返っている |
| 値がFDISTの結果と一致しない | 第4引数に FALSE を指定していないか。確率密度は確率ではない |
| 有意になったりならなかったりする | 自由度1と2を逆に指定していないか |
| 2群の分散比較で結論が甘い | 両側検定なのに2倍を忘れていないか |
結果が 0.05 ではなく 5% や 0 で表示される | セルの書式設定を「数値」か「パーセンテージ」に変更 |
2行目と3行目は、この記事の前半で扱った関数の取り違えです。
0.9台が出たら左側、第4引数を付けているなら確率密度を疑いましょう。
症状から逆算できると、原因の特定がぐっと速くなります。
自由度の逆指定は、気づく手がかりが値そのものしかないので特に厄介。
分散分析表の自由度列を指差し確認するくらいで、ちょうどいいと思います。
TIP
検算のコツは、隣のセルに
=F.DIST.RT(同じ引数)を置いて見比べること。
値が一致すれば関数の使い方は正しく、疑うべきはデータ側だとわかります。
古いテンプレートのFDISTを一括置換するときの手順と注意
どうしても新関数に統一したい、という場面もあるでしょう。
そのときは順番を守れば安全に移行できます。
- ブックを複製し、バックアップを別名で保存する
- 置換前の計算結果をどこかにコピーして控えておく
- 「検索と置換」を開く
- 検索する文字列に
FDIST(、置換後の文字列にF.DIST.RT(を入力する - 置換を実行する
- 控えておいた置換前の結果と、置換後の結果を突き合わせる
ポイントは、検索文字列に開きカッコまで含めること。FDIST だけで検索すると、セル内の説明文や見出しの文字列まで巻き込まれてしまいます。
置換後の確認は必ずやってください。
FDIST と F.DIST.RT は同じ値を返すので、1つでも数字が変わっていたら置換ミスのサインです。
WARNING
置換後の文字列に
F.DIST(を入れてはいけません。
F.DIST は引数を4つ取る別の関数で、返す値も右側確率ではありません。
入力する前に、末尾の.RTが付いているか目で確認しましょう。
そもそも論として、既存ブックの置換は必須ではありません。
FDIST のまま運用し、新規の数式だけ F.DIST.RT で書く。
この方針でも、実務上まったく問題ないですよ。
まとめ
FDIST は F分布の右側確率を返す互換性関数です。
後継の F.DIST.RT と完全に同じ値を返し、現行の Excel でも引き続き使えます。
この記事のポイントを整理しました。
- 構文は
=FDIST(x, 自由度1, 自由度2)の3引数。自由度1が分子、自由度2が分母 - FDIST の結果はそのままp値。有意水準0.05を下回れば「差がある」と判断できる
- 正しい置き換え先は F.DIST.RT だけ。
.RTは Right Tail の略 F.DIST(…, TRUE)は左側累積確率で、p値が 0.053 → 0.947 に逆転するF.DIST(…, FALSE)は確率密度。小さい値が返るので有意と誤読しやすい- 自由度を取り違えても、エラーは出ずに別の確率が返ってくる
- 2群の分散F検定は両側検定。片側確率を2倍してから5%と比べる
- xが負、または自由度が1未満だと
#NUM!エラー - 動いている既存ブックの FDIST は、無理に書き換えないほうが安全
F分布まわりは関数の数が多く、名前も似ていて迷いやすい領域。
それでも押さえるべき軸は2つだけです。
1つめは「右側か左側か」。
検定のp値がほしいなら、答えは常に右側です。
2つめは「片側か両側か」。
2群の分散を比べるF検定なら、FDIST の結果を2倍してから判定します。
この2軸で整理すれば、関数選びで迷うことはなくなりますよ。
古いブックの FDIST も、正体がわかってしまえばもう怖くありません。
次の関連記事もあわせて読むと、使い分けの理解がさらに深まりますよ。
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