フランス本社から「直線償却費を出して」と依頼されて、Googleスプレッドシートで困っていませんか。日本の定額法と似ているはずなのに、引数が7つもあるので身構えてしまいますよね。
この記事では、スプレッドシートのAMORLINC関数の使い方を、構文から実務での注意点まで同僚に教える感覚で解説します。初年度の自動日割り計算やAMORDEGRC関数との違いも整理しているので、フランス会計対応のシミュレーションに役立ててください。日本で使われるSLN・DDB・SYD・VDBとの位置づけもあわせて押さえておきましょう。
スプレッドシートのAMORLINC関数とは?
スプレッドシートのAMORLINC関数は、フランス旧会計基準(Plan Comptable Général)の直線償却費を計算する財務関数です。関数名は「アモーランク」と読み、フランス語の AMORtissement LINéaire Comptable(会計上の直線償却)の略ですよ。
最大の特徴は「初年度の取得日から期末日までを日割り計算し、以降は均等償却する」点にあります。AMORDEGRC関数のような係数はかからず、毎期同じ金額で償却を進めていく仕組みです。日本のSLN関数(定額法)と考え方は似ていますが、初年度の日割り処理と残存価額保護が自動で組み込まれている点で異なりますよ。
会計期の途中で資産を取得した場合でも、初年度の償却費を自動で日数按分してくれます。フランス系・EU系企業の経理業務でそのまま使える便利な関数ですよ。
減価償却シリーズの関連記事として、AMORDEGRC関数・SLN関数・DDB関数・SYD関数・VDB関数もあわせてチェックすると全体像がつかめますよ。
AMORLINC関数の構文と引数
AMORLINC関数の構文は次のとおりです。
=AMORLINC(取得価額, 購入日, 開始期, 残存価額, 期, 率, [基準])
英語表記だと =AMORLINC(cost, date_purchased, first_period, salvage, period, rate, [basis]) となります。引数の数と順序はAMORDEGRC関数と完全に同じなので、ペア関数として覚えるとラクですよ。
| 引数 | 省略 | 説明 |
|---|---|---|
| 取得価額(cost) | 必須 | 資産の購入価格 |
| 購入日(date_purchased) | 必須 | 資産を取得した日付。DATE関数(年月日から日付シリアル値を生成する関数)での指定を推奨 |
| 開始期(first_period) | 必須 | 最初の会計期が終了する日付 |
| 残存価額(salvage) | 必須 | 耐用年数終了後の資産の見積り価格 |
| 期(period) | 必須 | 償却費を求めたい会計期。0始まり(最初の期=0) |
| 率(rate) | 必須 | 減価償却率(例: 耐用年数5年なら0.2) |
| 基準(basis) | 省略可 | 1年の日数計算方式(下表参照、デフォルト0) |
基準(basis)引数の設定値
| 値 | 1年の日数計算 |
|---|---|
| 0(省略時) | 360日(米国NASD方式 30/360日) |
| 1 | 実際の日数/実際の日数 |
| 3 | 365日/実際の日数 |
| 4 | 360日(ヨーロッパ方式 30/360日) |
基準に 「2」を指定すると #NUM! エラー になります。これはAMORDEGRC関数と共通の仕様ですね。フランス会計ではヨーロッパ方式(基準4)が使われることが多いので、本国指示に合わせて選んでみてくださいね。
期引数は0始まりに注意
AMORDEGRC関数やVDB関数と同じく、AMORLINC関数の「期」引数も 0始まり です。最初の会計期の償却費を求めたいときは period=0 を指定します。うっかり1と書くと第2期の値が返ってきてしまうので、初見の方はまずこのルールを頭に入れておきましょう。
AMORLINC関数の基本的な使い方
ここでは、取得価額100万円・残存価額10万円・耐用年数5年(率0.2)の資産を例にします。AMORLINC関数の動きを段階的に見ていきましょう。購入日は 2024/4/1、最初の期末を 2025/3/31 として設定してみます。
基本データを用意する
スプレッドシートに次のような資産データを入力します。
| セル | 項目 | 値 |
|---|---|---|
| B2 | 取得価額 | 1,000,000 |
| B3 | 購入日 | 2024/4/1 |
| B4 | 開始期 | 2025/3/31 |
| B5 | 残存価額 | 100,000 |
| B6 | 率 | 0.2 |
第1期(期0)の償却費を求める
最初の会計期の償却費を計算する数式はこちらです。
=AMORLINC(B2, B3, B4, B5, 0, B6, 0)
結果は 200,000 です。AMORLINC関数には係数がかからないので、1,000,000 × 0.2 = 200,000円 がそのまま返ります。購入日から開始期までが丸1年のため、日割り調整も入りません。
各期の償却費を並べる
引数「期」を0, 1, 2…と変えていけば、各期の償却費を一覧化できます。同じ資産データで期0から期4までの推移を見てみましょう。
| 期 | 数式 | 償却費 |
|---|---|---|
| 期0 | =AMORLINC(B2,B3,B4,B5,0,B6,0) | 200,000円 |
| 期1 | =AMORLINC(B2,B3,B4,B5,1,B6,0) | 200,000円 |
| 期2 | =AMORLINC(B2,B3,B4,B5,2,B6,0) | 200,000円 |
| 期3 | =AMORLINC(B2,B3,B4,B5,3,B6,0) | 200,000円 |
| 期4 | =AMORLINC(B2,B3,B4,B5,4,B6,0) | 100,000円(残額) |
期0から期3までは毎期20万円ずつ均等に償却されます。4期目までの累計は80万円(20万×4)で、残り10万円を最終期(期4)で償却して残存価額に到達する仕組みですよ。
残存価額を下回らない保護機構
AMORLINC関数には 「累計償却費が取得価額から残存価額を引いた金額を超えない」保護挙動 が組み込まれています。上の例では 1,000,000 − 100,000 = 900,000円 が償却上限です。最終期(期4)の償却費は自動的に残額の10万円に調整されます。
この保護機構があるおかげで、手動で「最終期だけ残額を計算し直す」必要がありません。SLN関数と比べたときのAMORLINC関数ならではの便利ポイントですよ。
AMORDEGRC関数との使い分け
AMORLINC関数とペアで登場する AMORDEGRC関数 は、同じフランス会計基準に対応した減価償却関数です。ただし計算方法がまったく違うので混同しないようにしましょう。
| 比較項目 | AMORLINC関数 | AMORDEGRC関数 |
|---|---|---|
| 償却方法 | 直線法(毎期均等に償却) | 逓減法(初期に多く償却) |
| 減価償却係数 | なし(均等配分) | 耐用年数に応じて自動適用 |
| 初期の償却額 | 一定 | 大きい |
| 最終期の挙動 | 残額を自動清算 | 最後の2年で均等化 |
| 構文の引数数 | 7つ(basisのみ省略可) | 7つ(同じ構造) |
| フランス語の用語 | régime linéaire(直線方式) | régime dégressif(逓減方式) |
判断基準はシンプルです。毎期同額で均等償却したいなら AMORLINC関数を選びます。初期に多く費用化したい・定率法に近い処理をしたいなら AMORDEGRC関数が適していますよ。フランスの親会社から「régime linéaire で」と指示があれば AMORLINC、「régime dégressif で」と言われたら AMORDEGRC ですね。
引数構造は完全に同じなので、同じサンプルデータで両方の計算結果を比較するのが理解の近道です。詳しくはAMORDEGRC関数の記事も参照してみてくださいね。
SLN関数との使い分け
AMORLINC関数とよく比較される日本式の関数が SLN関数(Straight Line、定額法)です。どちらも直線償却ですが、いくつか重要な違いがあります。
| 比較項目 | AMORLINC関数 | SLN関数 |
|---|---|---|
| 引数の数 | 7つ | 3つ(取得価額・残存価額・耐用年数) |
| 初年度の日割り | 自動(取得日〜期末日の日数から算出) | なし(手動で月数按分が必要) |
| 残存価額保護 | あり(最終期で自動調整) | なし(毎期同額を機械的に算出) |
| 日数計算基準 | 選択可(basis引数) | 固定(年単位) |
| 会計基準 | フランス旧基準(PCG) | 汎用 |
| 用途 | フランス・EU系企業 | 日本・国際会計共通 |
SLN関数はシンプルで分かりやすく、日本の定額法の基本計算に向いています。一方AMORLINC関数は引数こそ多いものの、「初年度の日割りが自動」「残存価額を下回らない保護」という実務的な便利機能が組み込まれているのが強みですよ。
どちらを選ぶかは業務背景で決めるのが分かりやすいですね。フランス本社への報告なら AMORLINC、日本の税務申告や国内管理会計なら SLN、という使い分けが基本です。詳しい構文はSLN関数の記事にまとめています。
同じサンプルデータで結果を比較
先ほどの例(取得価額100万円・残存10万円・耐用年数5年)で、両関数の結果を並べてみましょう。
| 期 | AMORLINC関数 | SLN関数 |
|---|---|---|
| 期0 | 200,000円 | 180,000円(=SLN(1000000,100000,5)) |
| 期1 | 200,000円 | 180,000円 |
| 期2 | 200,000円 | 180,000円 |
| 期3 | 200,000円 | 180,000円 |
| 期4 | 100,000円(残額) | 180,000円 |
| 累計 | 900,000円 | 900,000円 |
どちらも累計は 900,000円(取得価額 − 残存価額)で一致しますが、各期の配分ルールが違いますね。AMORLINC関数は「4期で早期に償却 + 最終期で残額清算」、SLN関数は「5期にわたって均等」というイメージです。
会計期の途中で取得した場合の日割り計算
資産を会計期の途中で購入したケースも見てみましょう。例えば 2024/10/1 に取得し、最初の期末が 2025/3/31 という状況です。
=AMORLINC(1000000, DATE(2024,10,1), DATE(2025,3,31), 100000, 0, 0.2, 0)
この場合、購入日から期末までの日数は約半年分です。AMORLINC関数は初年度だけ日割り計算を自動で行うので、期0の償却費は1年分の約半分になりますよ。
| 購入日パターン | 開始期までの日数 | 期0の償却費(概算) |
|---|---|---|
| 2024/4/1(丸1年) | 約360日 | 200,000円 |
| 2024/10/1(半年) | 約180日 | 約100,000円 |
| 2025/1/1(3ヶ月) | 約90日 | 約50,000円 |
期1以降は通常どおり 取得価額 × 率 = 200,000円 の均等償却に戻ります。「最初の期だけ日割り、あとはフル」と覚えておくと実務で迷いませんね。
SLN関数との日割り計算の違い
「2024/10/1に取得して期0の償却費を求めたい」ケースで考えてみます。SLN関数を使う場合は手動で月数按分が必要です。
=SLN(1000000, 100000, 5) * (6/12)
このように (6/12) を掛けて半年分にする処理を自分で書かないといけません。AMORLINC関数なら購入日と期末日を引数に渡すだけで自動計算されるので、日数管理が楽になりますよ。
基準(basis)の選び方
フランス本社から特に指示がなければ、省略時の基準0(米国30/360日方式)で問題ありません。フランス国内のルールに厳密に合わせるなら基準4(ヨーロッパ30/360日方式) を指定しましょう。実際の日数で細かく計算したい場合は、基準1や基準3を選んでみてください。
よくあるエラーと対処法
#NUM!エラー
以下のケースで発生します。AMORLINC関数でもっとも多いエラーなので一覧で押さえておきましょう。
| 発生条件 | 対処法 |
|---|---|
| 率(rate)が0以下 | 正の数値を指定する |
| 残存価額が取得価額を超える | 残存価額 ≤ 取得価額 になるよう修正する |
| 購入日が開始期より後 | 購入日 ≤ 開始期 の関係を保つ |
| 基準(basis)に2を指定 | 0, 1, 3, 4 のいずれかに変更する |
| 期(period)に負の値 | 0以上の整数を指定する |
#VALUE!エラー
引数に数値や日付以外の文字列が入っていると発生します。日付を直接書くときは、文字列ではなく DATE(2024,4,1) のようにDATE関数で指定するのが確実ですよ。
#NAME?エラー
関数名のスペルミスが原因です。AMORLINCは「AMOLINC」「AMORINC」などと打ち間違いやすい名前です。入力途中に表示される候補から選んでみてくださいね。
日本の減価償却関数との使い分け
スプレッドシートには複数の減価償却関数があります。目的別に整理しておきますね。
| 関数 | 償却方法 | 基準 | 主な用途 |
|---|---|---|---|
| SLN関数 | 定額法 | 汎用 | 日本・国際会計共通の基本 |
| DDB関数 | 倍額定率法 | 汎用 | 管理会計・国際基準 |
| SYD関数 | 算術級数法 | 汎用 | 学術・管理会計 |
| VDB関数 | 可変率法 | 汎用 | 部分期間合計・累計計算 |
| AMORDEGRC関数 | 逓減法(係数付き) | フランス旧会計基準 | フランス・EU系企業 |
| AMORLINC関数 | 直線法(係数なし) | フランス旧会計基準 | フランス・EU系企業 |
日本国内の減価償却費を出したいときはSLN関数やDDB関数が基本です。AMORLINC関数はあくまでフランス会計基準に対応するための関数なので、税務申告書への転記には使えません。社内の管理会計・シミュレーション用途にとどめ、正式な税務計算は会計ソフトや税理士と連携しましょう。
「直線償却で毎期同額にしたい」という日本の定額法に近い使い方をしたい場面もありますね。その場合はSLN関数のほうがシンプルで使い勝手が良いケースも多いですよ。
Excelとの互換性
AMORLINC関数はExcelとGoogleスプレッドシートで同じ計算結果を返します。Excelファイル(.xlsx)をスプレッドシートで開いても関数はそのまま動作しますよ。
主な違いは表示上の話だけで、スプレッドシートでは引数名が日本語(「取得価額」「購入日」「開始期」など)で表示されます。Excel英語版と見た目は異なりますが動作には影響ありません。
フランス語版ExcelではAMORLINCがそのままの名前で表示されます。ヘルプ表記は amorti. linéaire のように省略形になっていることもありますよ。
まとめ
スプレッドシートのAMORLINC関数は、フランス旧会計基準の直線償却費を計算する財務関数です。ポイントを振り返っておきましょう。
- 係数は掛からず、毎期
取得価額 × 率の均等額で償却する - 「期」引数は 0始まり。第1期を計算したいときは
period=0を指定する - 最初の会計期は 日割り計算に自動対応。途中取得の資産でも手動按分が不要
- 残存価額を下回らない保護機構 が組み込まれており、最終期で残額を自動清算
- 基準(basis)に 2は指定不可。フランス式に揃えるなら基準4を選ぶ
- 日本の税務申告には使わず、フランス・EU系企業の 管理会計・シミュレーション用途 で活用する
減価償却シリーズとして、AMORDEGRC関数・SLN関数・DDB関数・SYD関数・VDB関数の記事も用意しています。国際会計と日本会計の両方を行き来するシーンで、関数の使い分けに役立ててみてくださいね。
