「この投資、結局のところ年利何パーセントなんだ?」
設備投資や新規プロジェクトの提案で、上司や経営層からこう聞かれた経験はありませんか。売上予測と初期費用を並べただけでは、「結局もうかるの?」がピンとこないですよね。
ExcelのIRR関数を使えば、投資の利回りをパーセントで算出できます。「この設備投資は年利8.9%相当のリターンがあります」と数字で言えれば、投資判断がグッとしやすくなりますよ。
この記事では、ExcelのIRR関数(内部収益率)の基本構文から、3年・5年・月次の実例、NPV関数との使い分け、よくある#NUM!エラーの対処法まで丁寧に解説します。
対象環境: Excel 2007以降のすべてのバージョン(Microsoft 365、Mac版、Web版含む)。
ExcelのIRR関数とは?内部収益率を求める財務関数
ExcelのIRR関数は、設備投資やプロジェクトのキャッシュフローから「年利何パーセント相当のリターンが得られるか」を計算してくれる財務関数です。
「内部収益率(Internal Rate of Return)」を求めるための関数で、投資判断のシンプルな基準を提供してくれますよ。
IRR関数の読み方と語源
IRRは英語の Internal Rate of Return(インターナル・レート・オブ・リターン)の略で、日本語では内部収益率と訳されます。
読み方は「アイ・アール・アール」もしくは「イラー」と読まれることが多いです。社内で口頭で話すときは「アイアールアール」と一文字ずつ読むのが無難ですよ。
IRR関数でできること
IRR関数を使うと、次のようなことができます。
- 投資案件の利回りを年利相当のパーセントで算出する
- 複数の投資案件を利回りベースで比較する
- 自社の目標利回り(ハードルレート)を超えるかどうか判断する
- 銀行や経営層への提案資料に「年利○%」と書いて説得力を持たせる
要するに、「この投資は得か損か」をパーセントで判断できる便利な関数なんです。
対応バージョン
IRR関数はExcel 2007以降のすべてのバージョンで使えます。Microsoft 365、Mac版Excel、Excel for the Web、Excel Mobile のいずれでも同じように動作するので、環境を気にせず使えますよ。
ExcelのIRR関数の書式と引数
基本構文
=IRR(範囲, [推定値])
カッコの中に、初期投資と各期のキャッシュフローが入ったセル範囲を指定します。とてもシンプルな構文ですよね。
引数の意味
| 引数 | 必須/任意 | 説明 |
|---|---|---|
| 範囲 | 必須 | 初期投資(マイナス)と各期の収入(プラス)を含むセル範囲または配列 |
| 推定値 | 任意 | IRRの推定値(省略時は0.1 = 10%として計算)。計算が収束しないときに調整する |
範囲には、必ずプラスとマイナスの値が混在している必要があります。すべてプラスやすべてマイナスだと#NUM!エラーになるので注意してくださいね。
TIP
NPV関数では初期投資を外で足しましたが、IRR関数では初期投資も範囲の中に含めます。ここがNPV関数との大きな違いですよ。
戻り値
戻り値は小数(例: 0.089)で返されます。セルの書式設定を「パーセント」にすると 8.9% のように表示されますよ。
セル範囲内の文字列・論理値・空白セルは無視されます。空白セルを「0」として扱わないので、データに歯抜けがあっても安心です。
ExcelのIRR関数の基本的な使い方
まずはシンプルな例で動きを確認してみましょう。
3年間の投資案件のIRRを求める
設備投資100万円をして、1年目に30万円、2年目に40万円、3年目に50万円のリターンが見込めるケースです。
| セル | 内容 | 金額 |
|---|---|---|
| A2 | 初期投資 | -1,000,000 |
| A3 | 1年目 | 300,000 |
| A4 | 2年目 | 400,000 |
| A5 | 3年目 | 500,000 |
| A6 | IRR | =IRR(A2:A5) |
A6セルに次の数式を入力します。
=IRR(A2:A5)
結果は 約8.9%(厳密値: 8.879%)と表示されます。
「この投資は年利8.9%相当のリターンがあります」と読めるわけですね。普通預金の金利が0.001%程度ですから、8.9%はかなり良い投資だと判断できますよ。
IRRの結果の読み方と投資判断
IRRの結果は、自社の目標利回り(ハードルレート)と比較して判断します。
| IRRの状態 | 判断 |
|---|---|
| IRR > 目標利回り | 投資価値あり(GO) |
| IRR = 目標利回り | 投資判断は他指標と総合判断 |
| IRR < 目標利回り | 投資見送り(NO GO) |
たとえば自社の目標利回りが5%なら、IRR 8.9%の案件は「+3.9ポイント上回る」ので投資価値ありと判断できます。
目標利回りは企業によって異なりますが、4〜7%程度を基準にする会社が多いです。借入金の金利+αで設定するのが実務的なやり方ですよ。
推定値の指定が必要なケース
ほとんどの場合、推定値(第2引数)は省略して大丈夫です。Excelが自動で 0.1(10%) を初期値にして計算してくれます。
ただし、極端なキャッシュフロー(マイナス側が大きい・収益期間が長いなど)では計算が収束せず #NUM! エラーになることがあります。そのときは推定値を変えて試してみてください。
=IRR(A2:A5, 0.05)
=IRR(A2:A5, -0.1)
=IRR(A2:A5, 0.5)
推定値の目安は「実際のIRRに近そうな値」です。事業計画上の目標利回りや、過去の類似案件のIRRを推定値に入れるとうまく収束しやすいですよ。
ExcelのIRR関数の実践的な使い方・応用例
基本がわかったところで、実務で使う応用例を3つ紹介します。
複数の投資案件をIRRで比較する
投資判断の現場でよくあるのは「A案件とB案件、どっちに投資すべきか?」という比較です。IRR関数を使えば、利回りベースで客観的に比較できますよ。
| 項目 | 案件A | 案件B |
|---|---|---|
| 初期投資 | -3,000,000 | -5,000,000 |
| 1年目 | 1,200,000 | 1,500,000 |
| 2年目 | 1,200,000 | 2,000,000 |
| 3年目 | 1,200,000 | 2,500,000 |
| IRR | =IRR(B2:B5) → 約9.7% | =IRR(C2:C5) → 約8.9% |
利回りの観点では 案件A(9.7%)> 案件B(8.9%) ですから、Aが優位に見えますね。
ただし、これだけで判断するのは早計です。次の使い分けセクションで「順位逆転」の落とし穴を紹介しますね。
5年間の設備投資を評価する
期間が長くなっても、引数の使い方は同じです。500万円の設備投資で5年間の収益を評価してみましょう。
| 年 | キャッシュフロー |
|---|---|
| 初期投資 | -5,000,000 |
| 1年目 | 800,000 |
| 2年目 | 1,200,000 |
| 3年目 | 1,500,000 |
| 4年目 | 1,500,000 |
| 5年目 | 1,200,000 |
IRR関数を入力します。
=IRR(A2:A7)
結果は 約7.1%(厳密値: 7.117%)になります。
5年間で総収益は620万円。元本500万円を回収しつつ、年利7.1%相当のリターンが得られる計算ですよ。
月次キャッシュフローでIRRを計算する
ここは間違いやすいポイントなので、しっかり押さえてくださいね。
月次のキャッシュフローでIRR関数を計算すると、結果は「月利」で返されます。年利と勘違いすると、投資判断を大きく誤ります。
たとえば月次データのIRRが「0.8%」と出たとします。これは月利0.8%の意味です。年利に換算する方法は2つあります。
=IRR(A2:A37) * 12 // 単純12倍(概算)
=(1+IRR(A2:A37))^12 - 1 // 複利換算(正確)
単純12倍だと年利9.6%、複利換算だと年利10.0%のように差が出ます。実務では複利換算(後者)を使うのが正確ですよ。
TIP
月次データを年次集計してから IRR関数に渡す方法もあります。データ量が多いときは年次集計のほうが扱いやすいですよ。
IRR関数とNPV関数の使い分け
IRR関数とNPV関数(正味現在価値)はセットで覚えると効果的です。両者は表裏一体の関係にあります。
結果の単位と判断基準の違い
| 項目 | IRR関数 | NPV関数 |
|---|---|---|
| 結果の単位 | パーセント(利回り) | 円(絶対金額) |
| 判断基準 | 目標利回りと比較 | プラスかマイナスか |
| 引数 | 範囲, [推定値] | 割引率, 値1, [値2], … |
| 初期投資の扱い | 範囲に含める | NPV関数の外で別途加算 |
| 割引率 | 自動計算 | 引数で指定 |
要するに、IRRは「効率(利回り)」、NPVは「絶対金額」を表す指標です。
順位逆転が起きるケース
ここがIRR関数の最大の落とし穴です。IRRの順位とNPVの順位が逆転するケースがあるので、両方を併用するのが安全ですよ。
先ほどの案件A・案件Bを、割引率5%でNPV計算してみます。
| 項目 | 案件A | 案件B |
|---|---|---|
| 初期投資 | -3,000,000 | -5,000,000 |
| IRR | 約9.7% | 約8.9% |
| NPV(割引率5%) | 約 +268,000円 | 約 +401,000円 |
IRR順位は A > B(9.7% > 8.9%)ですが、NPV順位は B > A(40万 > 27万)です。順位が逆転していますね。
これは案件Bの投資規模が大きいため、利回りでは劣っても絶対金額では上回るからです。
実務では「資金枠に余裕があるなら絶対金額を稼げる案件Bを取る、資金効率を最重視するなら案件Aを取る」と総合判断するのが正解です。
実務での使い分け原則
判断基準のシンプルな目安をまとめると、こうなります。
- 「利回りで比較したい」→ IRR関数
- 「儲かる絶対金額を知りたい」→ NPV関数
- 「資金が限られている」→ IRRで効率重視
- 「資金は十分ある」→ NPVで絶対金額重視
両方を計算して、案件カードに併記する運用がおすすめですよ。詳しくは ExcelのNPV関数の使い方 も合わせて読んでみてください。
IRR関数の限界とMIRR関数の出番
IRR関数には「再投資利率」という見落としがちな前提があります。実務で使い込む前に知っておきたいポイントですよ。
再投資利率の前提
IRR関数は内部的に、「途中で得た収益を、IRRと同じ利率で再投資できる」という前提で計算しています。
たとえばIRRが20%と計算された案件で、1年目に得た収益も「年利20%で運用できる」と仮定しているわけです。現実的にはそんな運用先はなかなかないですよね。
そのため、IRRが高すぎる案件では「実際の収益率はIRRよりも低い」可能性があります。
MIRR関数で現実に近い計算を行う
この問題を解決するのが MIRR関数(Modified Internal Rate of Return:修正内部収益率)です。
MIRR関数では、安全利率(finance_rate)と再投資利率(reinvest_rate)を別々に指定できます。
=MIRR(範囲, 安全利率, 再投資利率)
たとえば「借入金の金利は3%、再投資の運用先は2%」と現実的な利率を指定できますよ。これにより、より実態に近い利回りが計算できます。
詳しい使い方は ExcelのMIRR関数の使い方 で解説しています。IRR関数とセットで覚えると、投資判断の精度がグッと上がりますよ。
ExcelのIRR関数でよくあるエラーと対処法
実際にIRR関数を使うと、エラーに遭遇することがあります。原因と対処法を表でまとめておきますね。
| エラー/症状 | 原因 | 対処法 |
|---|---|---|
| #NUM! | 範囲にプラス値とマイナス値が混在していない | 初期投資のマイナス値を範囲に必ず含める |
| #NUM! | 20回の反復で計算が収束しない | 推定値を変えて再試行(例: 0.05, -0.1, 0.5) |
| #VALUE! | 範囲に文字列を直接入力している | セル参照を使い、数値型に変換する |
| 結果が異常値 | 入力データのスケール誤りや符号間違い | 桁数と符号を再確認する |
| IRRがマイナス | 総収益が初期投資を下回り元本割れ | データが正しければその投資は損失(見送り検討) |
| 月利と年利の混同 | 月次CFのIRR結果は「月利」を返す | 年利換算 =(1+IRR)^12-1 を行う |
#NUM! エラーの原因と対処
#NUM! エラーは2パターンあります。
パターン1: 符号が混在していない
=IRR(A1:A5)
A1:A5 がすべてプラス、もしくはすべてマイナスだとエラーになります。初期投資のマイナス値(例: -1,000,000)が範囲に含まれているか確認してください。
パターン2: 計算が収束しない
IRR関数は反復計算(ニュートン法:解を逐次的に近似する数値計算法)で値を求めます。最大20回の反復で 0.00001% 以内の精度に収束しない場合は #NUM! を返します。
=IRR(A1:A10, -0.5)
このように推定値を -0.5 や 0.05、0.5 に変えて試してみてください。多くの場合、推定値を変えるだけで収束しますよ。
#VALUE! エラーの原因と対処
範囲内のセルに「100,000円」のように文字列が入っていると #VALUE! が返ります。
セル参照ではなく数式内に直接 =IRR("-1000000", "300000") のように書いてもエラーになります。必ずセル参照で渡すことを覚えておきましょう。
結果が想定と違う場合の確認ポイント
エラーは出ないけど「結果が変?」というケースもあります。次の3点をチェックしてみてください。
- 符号: 初期投資はマイナス、収益はプラスになっているか
- 桁数: 1,000,000 と 100,000 を取り違えていないか
- 期間: 月次データなのに年利と勘違いしていないか
IRR関数とXIRR関数の違い
最後に、IRR関数の親戚である XIRR関数 も紹介しておきますね。実務で「あ、これ使いたい」と思うシーンがありますよ。
日付が不均等な場合はXIRR関数
IRR関数は キャッシュフローが等間隔(毎年・毎月など) という前提で計算します。
ところが実務では「2026年1月15日に支出、3月8日に収入、7月22日に収入…」のように日付が不均等なケースがありますよね。このとき使うのが XIRR関数 です。
=XIRR(範囲, 日付範囲, [推定値])
引数は3つです。範囲・日付範囲・推定値(省略可)の組み合わせで、不均等な日付にも対応した正確な利回りを計算してくれます。
| 関数 | 前提 | 引数 |
|---|---|---|
| IRR | キャッシュフローが等間隔 | 範囲, [推定値] |
| XIRR | 日付が不均等でもOK | 範囲, 日付範囲, [推定値] |
「IRR関数で計算したいけど、キャッシュフローのタイミングがバラバラ」というときは XIRR関数を選んでくださいね。
まとめ|Excel IRR関数で投資判断を数字で示そう
ExcelのIRR関数(内部収益率)の使い方を、基本から応用まで一通り紹介してきました。要点をおさらいしておきますね。
- IRR関数は 「年利何パーセント相当のリターンが得られるか」 を計算する財務関数
- 構文は
=IRR(範囲, [推定値])。推定値は省略可(デフォルト10%) - 範囲には初期投資のマイナス値を必ず含める(プラスとマイナスが混在必須)
- 戻り値は小数。セル書式を「パーセント」にすると % 表示になる
- 投資判断は「IRR > 目標利回り」なら GO、未満なら NO GO
- IRRは利回り、NPVは絶対金額。両方併用が安全(順位逆転に注意)
- 月次データの結果は 月利。年利換算は
(1+IRR)^12-1が正確 - IRRの再投資前提に納得できないときは MIRR関数 を使う
- 日付が不均等なときは XIRR関数 を使う
「年利8.9%相当のリターンが見込めます」とパーセントで示せると、投資提案の説得力がグッと上がりますよ。まずは小さな案件で =IRR(範囲) を試してみてください。
財務関数シリーズの他の記事もあわせて読むと、投資判断の引き出しが増えますよ。
- ExcelのNPV関数の使い方 — IRRと併用必須
- ExcelのMIRR関数の使い方 — 再投資前提を改善
- ExcelのFV関数の使い方 — 将来価値の計算
- ExcelのIPMT関数の使い方 — 各期の利息支払額
- ExcelのCUMIPMT関数の使い方 — 累計利息
- スプレッドシートのIRR関数の使い方 — Sheets版
数字で投資判断を示せるビジネスパーソンを目指していきましょうね。
