「ANOVAで計算したF値が有意かどうか、α=0.05のときの臨界F値と比べたい」「分散分析表のF境界値を自分で求めたい」というときに使うのが FINV関数 です。
ただ、Excelで「逆F分布」「F.INV.RT」「F.INV」と似た名前の関数が並んでいて、どれを選べばいいか迷う方も多いはずです。構文や引数の意味も慣れないと取っ付きにくく感じます。
この記事では、FINV関数の構文から、ANOVAや回帰分析での臨界値計算の実例、新関数 F.INV.RT との違い、FDIST との関係まで、まとめて整理します。
ExcelのFINV関数とは?
ExcelのFINV関数(読み方:エフインバース)は、F分布の右側確率の逆関数を返す関数です。関数名は「F–Inverse(F逆関数)」の略で、与えた確率 p に対して「右側確率がちょうど p になるようなF値」を返してくれます。
ざっくり言うと、FDIST(x, d1, d2) = p という関係に対して、FINV(p, d1, d2) = x を返す関数です。FDIST が「F値からp値」を求めるのに対して、FINV は「p値からF値」を逆算します。
実務上は「有意水準α=0.05のときの臨界F値(棄却域の閾値)」を求めるために使います。観測されたF値が臨界F値を上回れば「統計的に有意」、下回れば「有意とは言えない」と判定できます。
FINV関数は、Excel 2007以前から提供されている 旧式の関数です。Excel 2010以降では「互換性関数」のグループに分類されています。後継として F.INV.RT関数(ドット入り、RT=Right Tailed)が用意されていますが、FINV関数も後方互換性のために引き続き使えます。
NOTE
「互換性関数」は古いブックでも問題なく動くように維持されている関数群です。新規作成のワークブックでは新関数(F.INV.RT)が推奨されますが、既存のテンプレートやマクロでFINVを見かけても、結果は新関数とまったく同じです。
FINV関数の書き方(構文と引数)
FINV関数の構文は次のとおりです。
=FINV(probability, deg_freedom1, deg_freedom2)
引数は3つで、すべて必須です。
| 引数 | 必須 | 説明 |
|---|---|---|
| probability | 必須 | 右側確率(0より大きく1より小さい数値)。有意水準αに相当 |
| deg_freedom1 | 必須 | 分子の自由度(1以上の整数。グループ間自由度) |
| deg_freedom2 | 必須 | 分母の自由度(1以上の整数。グループ内自由度) |
戻り値はF値(0以上の数値)です。「右側確率がちょうど probability になるようなF値の閾値」を表します。
TIP
probability に 有意水準α(例:0.05、0.01、0.001)を入れて、自由度を ANOVA や回帰分析の出力から指定すれば、棄却域の臨界F値が求まります。これが FINV のもっとも典型的な使い方です。
FDIST関数との対応関係を理解する
FINV と FDIST は、F分布まわりで対になる関数です。次の対応で整理しておくとスッキリします。
- FDIST: F値 → p値(右側確率)
- FINV: p値(右側確率)→ F値
数式で書くと FDIST(FINV(p, d1, d2), d1, d2) = p という恒等関係が成り立ちます。試しにExcelで =FDIST(FINV(0.05, 2, 12), 2, 12) と入力すると、ぴったり 0.05 が返ります。
実務的にはこの2関数を次のように使い分けます。
- 計算済みのF値が有意か知りたい → FDIST でp値を求める
- 「F値がいくつ以上なら有意か」を事前に知りたい → FINV で臨界F値を求める
両方を使えば、F検定の流れがExcel上で完結します。
実務例1:ANOVAの臨界F値を求める(α=0.05)
3つの広告クリエイティブA・B・Cで、それぞれ5日間ずつコンバージョン率を比較するANOVAを想定します。自由度は 分子=2(グループ数 – 1)、分母=12(全体サンプル数 – グループ数)です。
α=0.05 のときの臨界F値を求めてみましょう。
=FINV(0.05, 2, 12)
このサンプルでは、結果はおよそ 3.8853 が返ります。意味は「自由度(2, 12)のF分布で、F値が 3.8853 を超える確率はちょうど5%」ということです。
ANOVAで実際に計算されたF値が 3.8853 を上回れば「3群の平均値に有意な差がある」、下回れば「有意な差があるとは言えない」と判定できます。
# α=0.01 の臨界値(より厳しい基準)
=FINV(0.01, 2, 12)
こちらは 6.9266 程度になります。基準を厳しくするほど臨界F値は大きくなり、有意と判定されにくくなる関係です。
NOTE
「分析ツール」アドインの分散分析を実行すると、結果に F境界値 が自動表示されます。これは内部的に FINV(または F.INV.RT)で計算された値です。FINV関数は、分析ツールを使わずにシミュレーションや自動化マクロで臨界F値を取得したい場合に便利です。
実務例2:回帰分析の臨界F値を求める
重回帰分析で「モデル全体が意味を持つか」を判定する際にも、臨界F値を使います。例として、説明変数3つ・サンプル数30件の重回帰を考えます。回帰の自由度は 3、残差の自由度は 30 - 3 - 1 = 26 です。
α=0.05 のときの臨界F値は次のとおりです。
=FINV(0.05, 3, 26)
結果はおよそ 2.9752 が返ります。回帰分析の出力にあるF値(観測されたF値)がこの値を上回っていれば「回帰モデル全体は有意」と判定できます。
TIP
回帰分析の出力には「有意 F」(p値)が直接表示されるため、通常は p値 < 0.05 で判定すれば十分です。FINV を使う場面は、分析結果の解釈を後から第三者に説明するために臨界F値を併記したい場合や、複数モデルの臨界値を一覧で並べたい場合に便利です。
F.INV.RT関数(新関数)との違い・使い分け
Excel 2010以降では、後継の F.INV.RT関数(ドット入り、Right Tailed)が用意されています。
| 項目 | FINV | F.INV.RT |
|---|---|---|
| 導入時期 | Excel 2007以前から | Excel 2010以降 |
| 構文 | FINV(probability, deg_freedom1, deg_freedom2) | F.INV.RT(probability, deg_freedom1, deg_freedom2) |
| 計算結果 | 同一 | 同一 |
| 関数の分類 | 互換性関数 | 統計関数 |
引数の数・順番・意味すべて同じで、計算結果も完全に一致します。FINV(p, d1, d2) = F.INV.RT(p, d1, d2) という関係です。
使い分けの実務指針
- 古いExcel環境(2007以前)と共有する → FINV
- 自分専用または新しい環境で使う → F.INV.RT
- 既存ブックの数式を継承する → そのまま変更不要
Microsoft公式は新関数(F.INV.RT)を推奨していますが、FINV が将来削除される予定もないので、安心して使えます。
WARNING
Excel 2010以降には、左側確率の逆関数を返す F.INV関数(RT なし)も別途追加されています。F.INV(p, d1, d2) は「左側確率がちょうど p になるF値」を返すので、FINV/F.INV.RT とは結果が異なります。臨界F値を求めるときは 必ず FINV か F.INV.RT を使いましょう。両者の関係は
F.INV.RT(p, d1, d2) = F.INV(1 - p, d1, d2)です。
よくあるエラーと対処法
| エラー | 原因 | 対処法 |
|---|---|---|
#VALUE! | probability や自由度に数値以外が入っている | すべて数値で指定する |
#NUM! | probability が 0以下または1以上/自由度が1未満/結果が 10^10 以上 | probability は 0 < p < 1 の範囲、自由度は1以上の整数を指定 |
#N/A | 計算が100回反復しても収束しない | 引数の組み合わせを見直す(極端に小さい確率や大きすぎる自由度を避ける) |
#NAME? | 関数名のスペルミス | FINV の綴りを確認 |
特に多いのが、有意水準を間違って 5 や 95 などパーセント表記の数値で渡してしまうケースです。FINVの probability は 小数表記(例:5%なら 0.05)で指定する必要があります。
また、#N/A は実務ではほとんど発生しませんが、確率が 1E-15 のように極端に小さい場合に出ることがあります。その場合は実用的な範囲(0.001〜0.10程度)で指定し直しましょう。
関連関数:FDIST・FINV・F.DIST.RT・F.INV.RT の関係
F分布まわりには、p値とF値を相互に変換する関数が4つあります。次の表で全体像を整理しておきましょう。
| 関数 | 入力 | 出力 | 役割 |
|---|---|---|---|
| FDIST | F値, 自由度1, 自由度2 | p値(右側確率) | 計算したF値の有意性を判定 |
| FINV | 確率, 自由度1, 自由度2 | F値 | 棄却域の臨界F値を求める |
| F.DIST.RT | F値, 自由度1, 自由度2 | p値(右側確率) | FDISTの新関数版 |
| F.INV.RT | 確率, 自由度1, 自由度2 | F値 | FINVの新関数版 |
要するに、観測されたF値の有意性を判定したいなら FDIST関数/F.DIST.RT、α=0.05 で「これ以上のF値なら有意」という臨界値を逆算したいなら FINV/F.INV.RT を使う、という関係です。両者を組み合わせると、F検定の流れが Excel だけで完結します。
t分布の文脈でも同じような対応関係があり、p値からt値を逆算したいときは TINV関数、t値からp値を求めたいときは TDIST関数を使います。同じく TTEST関数 と組み合わせると、検定の流れを一気に整理できます。
まとめ
ExcelのFINV関数は、F分布の臨界F値を一発で計算できる便利な互換性関数です。要点を整理すると次のとおりです。
- 構文:
=FINV(probability, deg_freedom1, deg_freedom2) - 戻り値はF分布の 右側確率の逆関数(α=p のときの臨界F値)
- 分散分析(ANOVA)や回帰分析の 棄却域の閾値 を求められる
- 自由度1は 分子(グループ間)、自由度2は 分母(グループ内)
- 新関数 F.INV.RT と計算結果は完全に同一。新規ブックでは F.INV.RT を推奨
- F.INV(RTなし)は左側確率の逆関数なので、臨界F値の計算では使わない
α=0.05 で臨界F値を求めて、観測F値と比較するのがF検定の定石です。FDIST(FINV(p, d1, d2), d1, d2) = p という対応関係を覚えておくと、p値とF値の行き来がスムーズになります。
合わせて FDIST関数 を使えばF値とp値の双方向の変換ができ、TTEST関数 や TINV関数 を使えばt検定の流れもExcelだけで完結します。
