「IRR関数で投資の収益率を計算したけど、なんだか結果が楽観的すぎる気がする…」と感じたことはありませんか。
IRR関数は便利な反面、「得られた収益はすべて同じ高い利率で再投資できる」という現実離れした前提を置いています。借入金利と運用利回りが違う実務の世界では、IRRが過大評価になりやすいのが弱点です。
GoogleスプレッドシートのMIRR関数は、資金の調達コスト(安全利率)と収益の運用利回り(再投資利率)を別々に設定できる改良版の財務関数です。設備投資・不動産投資・新規事業の収益性をより現実的に評価できます。この記事では、基本構文から3つの実務シナリオ、IRR・XIRR・NPVとの使い分け、再投資利率設定の落とし穴まで、すぐに使えるテンプレと一緒に解説します。
- スプレッドシートのMIRR関数とは?修正内部収益率を求める財務関数
- スプレッドシートのMIRR関数の書式と3つの引数
- スプレッドシートのMIRR関数の使い方①|設備投資プロジェクトの収益率を求める
- スプレッドシートのMIRR関数の使い方②|不動産投資の実質利回りを評価する
- スプレッドシートのMIRR関数の使い方③|新規事業の収益性を3シナリオで比較する
- スプレッドシートのMIRR関数とIRR・XIRR・NPVの使い分けマトリクス
- スプレッドシートのMIRR関数の落とし穴|再投資利率の根拠をどう決める?
- スプレッドシートのMIRR関数のよくあるエラーと対処法
- スプレッドシートのMIRR関数 よくある質問(FAQ)
- スプレッドシートのMIRR関数と関連する財務関数まとめ
- まとめ:スプレッドシートのMIRR関数で投資判断のリアリティを高める
スプレッドシートのMIRR関数とは?修正内部収益率を求める財務関数
MIRR(読み方:エム・アイ・アール・アール)は「Modified Internal Rate of Return(修正内部収益率)」の略です。GoogleスプレッドシートとExcelの両方に搭載されている財務関数です。IRR関数の弱点である「再投資の非現実的な前提」を解消するために作られました。
MIRR関数の3つの強み
- 現実的な収益率がわかる: 借入金利と運用利回りを分けて設定するので、IRRの楽観バイアスを補正できる
- 複数の解(根)問題が起きない: IRRはキャッシュフローの符号変化が複雑だと複数の答えが出るが、MIRRは必ずひとつの値を返す
- 投資判断の説得力が増す: 「調達コストを上回る運用ができているか」を直接示せるので、稟議書や経営報告に使いやすい
Excel版MIRRと完全互換
ExcelのMIRR関数とスプレッドシートのMIRR関数は構文・挙動ともに完全一致しています。Excel版の解説はExcelのMIRR関数の使い方にまとめてあるので、両方を使う場面でも切り替えに迷いません。
スプレッドシートのMIRR関数の書式と3つの引数
=MIRR(値, 安全利率, 再投資利率)
| 引数 | 英語名 | 内容 | 入力例 |
|---|---|---|---|
| 値 | values | キャッシュフローを含むセル範囲。負(支出)と正(収益)を最低1つずつ含むこと | B2:B7 |
| 安全利率 | finance_rate | 投資資金の調達コスト(借入金利など)。負のキャッシュフローに適用 | 0.05 |
| 再投資利率 | reinvest_rate | 収益の再投資利回り(定期預金・別の運用先など)。正のキャッシュフローに適用 | 0.03 |
引数は3つすべて必須です。利率はパーセント記法(5%)でも小数(0.05)でも受け付けます。
知っておきたい仕様の注意点
- セル範囲に空白セルは0として扱われるわけではなく、計算から除外されます(IRRと同じ挙動)
- セル範囲に文字列が含まれていると
#VALUE!エラーになります - キャッシュフローは等間隔(年・月など)を想定しています。日付が不規則な場合はXIRR関数を使いましょう
IRR関数との計算ロジックの違い
IRR関数は「収益をIRR自身の利率で再投資する」という閉じた前提で計算します。MIRR関数は次の3ステップで計算します。
- 負のキャッシュフロー(支出)を安全利率で現在価値に割り戻す
- 正のキャッシュフロー(収益)を再投資利率で将来価値に運用する
- 「現在の支出合計」と「将来の収益合計」から年率収益を逆算する
この仕組みのおかげで、調達と運用を別々の利率で扱う現実的なシミュレーションが実現できます。
スプレッドシートのMIRR関数の使い方①|設備投資プロジェクトの収益率を求める
製造業の設備投資5年プロジェクトを例にしてみましょう。借入で初期投資を賄い、生まれた利益を定期預金で運用するシナリオです。
条件設定
| セル | 内容 | 金額 |
|---|---|---|
| B2 | 初期投資(0年目) | −5,000,000 |
| B3 | 1年目の収益 | 1,200,000 |
| B4 | 2年目の収益 | 1,500,000 |
| B5 | 3年目の収益 | 1,800,000 |
| B6 | 4年目の収益 | 1,600,000 |
| B7 | 5年目の収益 | 1,400,000 |
| B9 | 安全利率(借入金利) | 5% |
| B10 | 再投資利率(運用利回り) | 3% |
数式
=MIRR(B2:B7, B9, B10)
結果は 約 18.7% になります。
同じキャッシュフローでIRR関数を計算すると約22.1%です。MIRRのほうが3.4ポイントほど低く、現実的な数値になります。
なぜMIRRはIRRより低くなる?
IRRは収益を「IRR自身(22.1%)」で再投資できると仮定しています。一方MIRRでは再投資利率を3%に設定しているため、運用効率が現実的な水準まで下がります。差分の3.4ポイントが、IRRの楽観バイアスの正体です。
判断基準として、MIRRが借入金利(安全利率5%)を上回っていれば、プロジェクトは資金調達コストを賄えていることを意味します。18.7%は十分なマージンです。
スプレッドシートのMIRR関数の使い方②|不動産投資の実質利回りを評価する
賃貸物件の5年保有プランで、自己資金と借入金が混在するケースを見てみましょう。家賃収入は定期預金で待機させる前提です。
条件設定
| セル | 内容 | 金額 |
|---|---|---|
| B2 | 初期投資(自己資金+借入) | −20,000,000 |
| B3〜B6 | 各年の純家賃収入 | 1,400,000 |
| B7 | 5年目(家賃+売却益) | 18,000,000 |
| B9 | 安全利率(住宅ローン金利) | 2% |
| B10 | 再投資利率(定期預金) | 0.5% |
数式
=MIRR(B2:B7, B9, B10)
結果は 約 4.2% になります。
不動産投資の表面利回り(家賃÷物件価格)は7%程度に見えても、実質的な収益率はMIRRで4%台まで下がるのが一般的です。借入返済と低金利の運用環境を反映したシビアな実態を見られるのがMIRRの強みです。
| 指標 | 値 | 注意点 |
|---|---|---|
| 表面利回り | 7.0% | 売却損益・運用利回り無視 |
| IRR | 約 5.3% | 再投資の前提が非現実的 |
| MIRR | 約 4.2% | 調達・運用を分離した現実的指標 |
物件比較やローン審査資料に貼るときは、「表面利回り」「IRR」「MIRR」の3つを並べると、ファイナンス知識のある担当者を納得させやすいです。
スプレッドシートのMIRR関数の使い方③|新規事業の収益性を3シナリオで比較する
新規事業の立ち上げでは、「楽観」「中立」「悲観」の3シナリオを並べる手法が定番です。MIRRなら再投資利率を変えるだけで、収益率の変動幅(感度)を一気に算出できます。
条件設定(共通)
| 年度 | キャッシュフロー |
|---|---|
| 0年目 | −5,000,000 |
| 1年目 | 1,200,000 |
| 2年目 | 1,500,000 |
| 3年目 | 1,800,000 |
| 4年目 | 1,600,000 |
| 5年目 | 1,400,000 |
| シナリオ | 数式 | 結果 |
|---|---|---|
| 楽観(高利回り運用) | =MIRR(B2:B7, 5%, 6%) | 約 21.1% |
| 中立(基本ケース) | =MIRR(B2:B7, 5%, 3%) | 約 18.7% |
| 悲観(低金利環境) | =MIRR(B2:B7, 5%, 1%) | 約 16.8% |
3シナリオを並べると、再投資利率が1〜6%の範囲では収益率の差はおよそ4ポイント程度と意外に狭いことがわかります。再投資利率の見積もりに神経質にならなくても、投資判断の方向性は大きく変わらないという目安になります。
経営会議でこの表を見せるときは、ハードルレート(最低限超えたい収益率)を一緒に書いておくと話が早いです。たとえばハードル15%なら、悲観シナリオでも16.8%なのでGOサインを出しやすい、といった判断ができます。
スプレッドシートのMIRR関数とIRR・XIRR・NPVの使い分けマトリクス
MIRRと似た用途の関数はいくつかあります。状況に応じて使い分けると、より正確な判断ができます。
| 関数 | 想定シーン | 最大の強み | 弱み |
|---|---|---|---|
| IRR | 等間隔キャッシュフロー、ざっくり評価したい | シンプル、業界の慣行 | 再投資の前提が非現実的、複数解問題 |
| MIRR | 借入・運用利率を分けて評価したい | 調達と運用を分離、現実的な値 | 再投資利率の根拠が必要 |
| XIRR | 日付が不規則なキャッシュフロー | 実際の日付ベースで正確 | データに日付列が必要 |
| NPV | 投資の絶対額を評価したい | 「金額」で答えが出る | 利率を別途決める必要あり |
ざっくりした使い分けフロー
- 日付が不規則 → XIRR一択
- 借入で投資し、収益を運用する → MIRR(調達・運用の利率を分離)
- 比較のために業界慣行に合わせたい → IRR
- 投資判断を「金額」で議論したい → NPV(割引率を決めてから計算)
複数指標を並べるとぶれない判断ができます。実務では「IRR / MIRR / NPV」の3点セットを稟議書に載せる企業も多いです。
スプレッドシートのMIRR関数の落とし穴|再投資利率の根拠をどう決める?
MIRRの最大のメリットは「再投資利率を別設定できる」点です。ただしこれは裏返すと再投資利率の見積もりが結果を左右するということでもあります。根拠のない数字を入れると、出てくる収益率も恣意的になりがちです。
再投資利率の現実的な目安
| 運用先 | 目安利率 | コメント |
|---|---|---|
| 普通預金 | 0.001%〜0.02% | 事実上0%扱い |
| 定期預金(1年) | 0.02〜0.3% | 大手銀行ベース |
| 個人向け国債(変動10年) | 0.5〜1.0% | 安全資産の標準 |
| 社債(投資適格) | 1〜3% | 信用力により変動 |
| 別の事業投資 | 5〜10% | 自社の過去IRRなどを参照 |
社内で説明するときは、「自社の過去3年の平均IRR」「市場の安全資産利回り」など、第三者が検証できる基準で再投資利率を決めるのがおすすめです。
安全利率の決め方
安全利率は「資金調達コスト」を入れるのが基本です。
- 借入で調達 → 借入金利(実効金利)
- 自己資金で調達 → 加重平均資本コスト(WACC)または社内ハードルレート
- 複数の資金ミックス → 加重平均で算出
自己資金比率が高い案件ではWACCで補正するほうが厳密です。借入金利だけで設定すると、自己資金分のコストを過小評価してしまいます。
スプレッドシートのMIRR関数のよくあるエラーと対処法
#DIV/0! エラー
負のキャッシュフロー(支出)がゼロ件、または正のキャッシュフロー(収益)がゼロ件のときに発生します。
NG:=MIRR({1000, 2000, 3000}, 5%, 3%) // 支出がない
OK:=MIRR({-5000, 2000, 3000}, 5%, 3%)
キャッシュフロー範囲に少なくとも1つずつの負・正の値が含まれているか確認しましょう。
#VALUE! エラー
次のいずれかが原因です。
- 安全利率または再投資利率に文字列が入っている
- セル範囲に数値以外の文字列(「N/A」「-」など)が混入している
利率はパーセント(5%)または小数(0.05)で入力してください。文字列の混入はTRIM関数や置換でクリーンアップするのが手早いです。
結果がマイナスになる
安全利率が極端に高い、または収益が少なすぎる場合にMIRRがマイナスになります。これは「投資が回収できない」ことを意味するため、計画の見直しが必要です。
たとえば借入金利10%・収益見込みが控えめなプロジェクトでは、MIRRが−2%といった結果になりがちです。エラーではなくプロジェクト不採算のシグナルとして読み取りましょう。
結果がIRRと大きく違う
IRRとMIRRが10ポイント以上離れる場合は、再投資利率の設定が現実離れしていないかを疑ってください。たとえばIRR 30%・再投資利率 0.5% のような極端な差は、計算上は出ますが投資判断にはほぼ使えません。
スプレッドシートのMIRR関数 よくある質問(FAQ)
Q1. MIRRとIRR、どちらを使うべきですか?
「ざっくり比較」ならIRR、「現実的な判断」ならMIRRです。稟議書や投資委員会の資料では両方を併記するのが標準的な実務パターンです。「IRRはざっくり見るための指標、MIRRは意思決定用」と覚えておくと使い分けが楽になります。
Q2. 月次キャッシュフローでもMIRRは使えますか?
使えます。ただし安全利率・再投資利率も月利で入力する必要があります。年利を月利に変換するには (1+年利)^(1/12)-1 で計算しましょう。たとえば年5%なら月利は約0.407%です。出てきたMIRRも月利になるので、(1+MIRR結果)^12-1 で年利換算できます。
Q3. キャッシュフローに途中で0年(収益なし)が混じってもOK?
OKです。MIRR関数は0をそのまま「収益も支出もない年」として扱います。ただし完全な空白セルは計算から除外されるので、0年は明示的に 0 と入力するのがおすすめです。
Q4. MIRRがハードルレートを下回ったら必ず却下すべき?
ファイナンス理論上は却下が原則です。ただし、戦略的価値(市場シェア確保、新技術習得など)がある案件は別評価が必要です。MIRRは財務的な裏付けを与えるツールであり、最終判断は経営判断と組み合わせて行いましょう。
Q5. MIRRの結果を「パーセント」で表示するには?
MIRR関数の結果は小数で返ります(0.187…)。セルの書式を「パーセンテージ」に変更すると、そのまま「18.7%」と表示できます。書式設定メニューから操作するのが最も簡単です。
スプレッドシートのMIRR関数と関連する財務関数まとめ
| 関数 | できること | 主な用途 |
|---|---|---|
| MIRR | 修正内部収益率 | 投資判断(調達・運用を分離) |
| IRR | 内部収益率(等間隔) | 投資判断(簡易) |
| XIRR | 内部収益率(不規則日付) | 実投資の正確な利回り |
| NPV | 正味現在価値 | 投資判断(金額ベース) |
| PMT | 毎期の返済額 | ローン計算 |
| FV | 将来価値 | 積立後の予測 |
| PV | 現在価値 | 元本の逆算 |
| RRI | 複利利率・CAGR | 必要利率の逆算 |
まとめ:スプレッドシートのMIRR関数で投資判断のリアリティを高める
GoogleスプレッドシートのMIRR関数は、安全利率(資金調達コスト)と再投資利率(収益の運用利回り)を別々に設定できる修正内部収益率の関数です。IRR関数の楽観バイアスを補正し、現実的な投資判断を支えてくれます。
実務で力を発揮するのは、こんな場面です。
- 設備投資プロジェクトの実質収益率を測りたいとき
- 不動産投資の表面利回りと実質利回りのギャップを評価したいとき
- 新規事業の収益性を3シナリオで比較したいとき
再投資利率の根拠は、自社の過去IRRや市場の安全資産利回りなど、第三者が検証できる基準で決めるのがコツです。MIRRと一緒にIRR・NPV・XIRRを並べると、稟議書や投資委員会で揺るぎない説得力を持たせられます。
Excel版MIRRの使い方はExcelのMIRR関数の使い方で解説しています。ExcelとスプレッドシートでMIRR関数の構文は完全に共通なので、両方を使う環境でも安心です。
