「t検定の棄却限界(臨界値)をExcelで一発で出したいけど、どの関数を使えばいいんだろう?」
こんな悩みを持ったことはありませんか?
p値の計算はT.DIST関数で済ませられても、逆に「有意水準5%のときのt値はいくつ?」を求める場面で迷う人は多いです。
教科書の巻末t表をめくるのも面倒ですよね。
そんなときに使うのがExcelのT.INV関数です。
この記事ではT.INV関数の基本構文から実務での活用例まで解説します。
T.DIST関数との関係や、T.INV.2T関数(両側)・旧TINV関数との違いもあわせて整理しました。
T.INV関数とは?t分布の左側確率からt値を逆算する関数
ExcelのT.INV関数(読み方: ティー・インブ)は、t分布の左側確率に対応するt値を返す関数です。
「INV」は「Inverse(逆)」の略で、確率を入力するとt値が返ってくる「逆引き関数」です。
ひとことでいうと、T.DIST関数の逆向きの計算ができる関数です。
T.DIST関数が「t値 → 確率」を計算するのに対して、T.INV関数は「確率 → t値」を返します。
t分布は、サンプル数が少なくて母集団の分散がわからないときに使う分布です。
釣り鐘型で正規分布によく似ていますが、裾が少し厚いのが特徴です。
自由度が大きくなるほど、正規分布に近づきます。
T.INV関数でできること
T.INV関数の主な用途は次のとおりです。
- 有意水準(α)と自由度から、片側検定の臨界値を求める
- 信頼区間を計算するときの臨界t値を取得する
- 教科書の「t分布表」の値をExcelで確認する
- t検定で「棄却域の境界線」を可視化する
NOTE
T.INV関数はExcel 2010以降で使えます。
Microsoft 365、Excel 2013〜2024のすべてのバージョンに対応しています。
Excel 2007以前では使えないので、その場合は旧TINV関数を使ってください(仕様が異なる点に注意)。
「左側確率」が表すもの
T.INV関数の第1引数「確率」は、t分布の左側確率を意味します。
つまり「t値以下になる確率」のことです。
たとえば確率0.95、自由度10のT.INVは約1.812です。
これは「自由度10のt分布で、t = 1.812以下になる確率がちょうど95%」という意味になります。
逆にいえば、「右側に5%だけ残る境界線」が約1.812というわけです。
片側検定で有意水準5%の臨界値を求めたいときは、=T.INV(0.95, df)と書きます。
「左側に95%、右側に5%」という関係を覚えておくと迷わなくなります。
T.INV関数の書き方(構文と引数)
基本構文
=T.INV(確率, 自由度)
カッコの中に2つの引数を指定します。
T.DIST関数のようにTRUE/FALSEの「関数形式」を選ぶ必要はありません。
引数の説明
| 引数 | 必須/任意 | 説明 |
|---|---|---|
| 確率 | 必須 | t分布の左側確率。0より大きく1より小さい値(0 < 確率 < 1) |
| 自由度 | 必須 | t分布の自由度。1以上の整数 |
引数は2つだけのシンプルな関数です。
確率には0や1を渡せない点に注意してください。
TIP
自由度に小数を入れると、整数部分だけが使われます。
たとえば10.7を渡しても、内部では10として計算されます。
確率は0〜1の範囲で指定する
T.INV関数の最大の注意点は、確率が0以下または1以上だとエラーになることです。
=T.INV(0, 10) → #NUM!エラー
=T.INV(1, 10) → #NUM!エラー
=T.INV(-0.1, 10) → #NUM!エラー
=T.INV(1.5, 10) → #NUM!エラー
=T.INV(0.95, 10) → 正常(約1.812)
「有意水準5%」と「左側確率0.95」を混同しないように注意してください。
片側検定の右側臨界値を求めるときは、有意水準αを使って=T.INV(1 - α, df)と書きます。
T.INV関数の基本的な使い方
ここからは具体的な確率と自由度を使って、T.INV関数の動きを確認していきましょう。
片側検定の臨界t値を求める
有意水準5%、自由度15で片側検定の右側臨界値を求めます。
左側に95%入る位置を求めればよいので、第1引数は0.95です。
=T.INV(0.95, 15)
結果は約 1.7531 です。
これは「片側5%水準の右側臨界値」で、t統計量がこの値を超えたら「有意差あり」と判断できる境界線です。
逆に左側臨界値(左側5%)を求めるには、確率0.05を渡します。
=T.INV(0.05, 15)
結果は約 -1.7531 です。
t分布は平均0で左右対称なので、右側臨界値の符号を反転させた値になります。
信頼区間で使う臨界値を求める
95%信頼区間の臨界値は、両側に2.5%ずつ残す形で求めます。
自由度15のとき、上側臨界値は次の式で取得できます。
=T.INV(0.975, 15)
結果は約 2.1314 です。
「左側に97.5%、右側に2.5%」が境界線になるので、95%信頼区間の係数として使われます。
99%信頼区間なら、左側0.995で計算します。
=T.INV(0.995, 15)
結果は約 2.9467 です。
信頼度を上げるほど、臨界値が大きくなる関係が確認できます。
自由度を変えたときの値の動き
同じ確率(0.95)で、自由度を変えるとどうなるか見てみましょう。
=T.INV(0.95, 5) → 約 2.0150
=T.INV(0.95, 30) → 約 1.6973
=T.INV(0.95, 1000) → 約 1.6464
自由度が大きくなるほど、結果は標準正規分布の片側5%臨界値(約1.6449)に近づきます。
サンプルサイズが大きいときはt分布と正規分布の差がほぼなくなる、という性質が確認できますね。
TIP
「自由度が小さい(=サンプルが少ない)ほど、同じ有意水準でも臨界値は大きめに出る」と覚えておきましょう。
少ないデータでは「差がある」と言いにくくなる、と直感的に理解できますよ。
T.INV関数の実践的な使い方・応用例
1標本t検定の合否判定(手動t検定)
新しい工程で作った製品16個の重さを測ったところ、平均100g、標本標準偏差8gでした。
「目標の95gより重くなっているか」を片側t検定(右側、有意水準5%)で判定します。
まずt統計量を計算します。
=(100 - 95) / (8 / SQRT(16))
結果は 2.5 です。
次に右側臨界値をT.INV関数で取得します。
自由度はサンプル数 – 1 = 15です。
=T.INV(0.95, 15)
結果は約 1.7531 です。
t統計量2.5は臨界値1.7531を上回っているので、「有意水準5%で重くなっている」と判断できます。
p値で判定する場合はT.DIST.RT関数を使いますが、
「臨界値を超えたか」で見るほうが直感的なケースもあります。
報告書で「t = 2.50 > 臨界値1.75」と示すと、判定根拠が伝わりやすくなります。
平均値の95%信頼区間を計算する
サンプル20個から平均値の95%信頼区間を求めるケースを考えます。
95%信頼区間の臨界値は、左側0.975の位置にあるt値です。
=T.INV(0.975, 19)
結果は約 2.0930 です。
標準誤差は 4.0 / SQRT(20) = 0.8944 なので、信頼区間の幅は次の式で求められます。
=2.0930 * (4 / SQRT(20))
結果は約 1.872 です。
つまり95%信頼区間は「50.0 ± 1.87」となり、約48.13〜51.87の範囲に母平均が含まれると推定できます。
t分布表の代わりに使う
統計の教科書には「自由度別のt分布表」が掲載されていますが、T.INV関数があれば不要です。
よく使う臨界値をまとめておくと便利ですよ。
| 信頼度 / 有意水準 | 第1引数 | 自由度10 | 自由度20 | 自由度30 |
|---|---|---|---|---|
| 90%(片側5%) | 0.95 | 約 1.812 | 約 1.725 | 約 1.697 |
| 95%(片側2.5%) | 0.975 | 約 2.228 | 約 2.086 | 約 2.042 |
| 99%(片側0.5%) | 0.995 | 約 3.169 | 約 2.845 | 約 2.750 |
数式は =T.INV(0.975, 10) のように、信頼度に応じた左側確率と自由度を入れるだけです。
新しい確率水準が必要になっても、教科書を引き直す必要はありません。
TIP
両側検定や両側信頼区間の臨界値は、
T.INV(1 - α/2, df)で計算するのが基本です。
「両側5%信頼区間なら左側0.975」と覚えておきましょう。
両側臨界値を直接欲しいときはT.INV.2T関数を使うほうが楽です。
T.DIST・T.INV.2T・旧TINV関数との違い・使い分け
T.DIST関数との関係(互いに逆関数)
T.INV関数とT.DIST関数は、入力と出力がちょうど逆の関係にあります。
| 関数 | 入力 | 出力 |
|---|---|---|
| T.DIST | t値 | 左側確率(CDF) |
| T.INV | 左側確率 | t値 |
たとえば次の2つの式は、互いに「裏返し」の関係です。
=T.DIST(1.7531, 15, TRUE) → 約 0.95
=T.INV(0.95, 15) → 約 1.7531
「t値から確率を求めたい」ならT.DIST、「確率からt値を求めたい」ならT.INVと使い分けてください。
T.DIST関数の詳細も合わせて覚えておくと、t分布の計算が一通り揃います。
T.INV.2T関数との違い(片側 vs 両側)
T.INVと似た名前でT.INV.2T関数がありますが、指定する確率の意味が違います。
| 関数 | 確率の意味 | 主な用途 |
|---|---|---|
| T.INV | 左側確率 | 片側検定の臨界値、左側臨界値 |
| T.INV.2T | 両側合計の確率 | 両側検定の臨界値、両側信頼区間 |
たとえば自由度15で「両側5%の臨界値」を求めるとき、書き方が変わります。
=T.INV(0.975, 15) → 約 2.1314(左側に97.5%)
=T.INV.2T(0.05, 15) → 約 2.1314(両側合計5%)
どちらも同じ値を返します。
T.INV.2Tのほうが「有意水準αをそのまま渡せる」ので、両側検定では直感的です。
片側検定や信頼区間の計算では、T.INVのほうが柔軟性があって便利ですよ。
T.INV.2Tと等価な3つの式
T.INV.2T関数の結果は、T.INV関数でも計算できます。
等価式を知っておくと、数式の意味を理解しやすくなります。
=T.INV.2T(α, df)
=T.INV(1 - α/2, df)
=ABS(T.INV(α/2, df))
3つの書き方はすべて同じ値を返します。
| 数式 | 考え方 |
|---|---|
T.INV.2T(α, df) | 両側合計の確率を直接渡す |
T.INV(1 - α/2, df) | 上側臨界値(左側に1-α/2の位置) |
ABS(T.INV(α/2, df)) | 下側臨界値の絶対値 |
たとえば両側5%水準・自由度15なら、3つとも約2.1314になります。
旧TINV関数との互換性
旧TINV関数(Excel 2007以前)は、現在のT.INV関数とは仕様が大きく違います。
旧TINVは両側確率を渡す(=T.INV.2Tと同じ仕様)点に注意してください。
| 項目 | T.INV(新) | TINV(旧) |
|---|---|---|
| 引数 | (左側確率, 自由度) | (両側確率, 自由度) |
| 確率の意味 | 左側確率 | 両側合計の確率 |
| 同じ結果になる関数 | (特になし) | T.INV.2T |
| 導入バージョン | Excel 2010 | Excel 2003以前 |
旧TINV関数の代替は次のとおりです。
| 旧書き方 | 新書き方 |
|---|---|
| =TINV(α, df) | =T.INV.2T(α, df) |
| =TINV(α, df) | =T.INV(1 – α/2, df) |
| (旧TINVには相当なし) | =T.INV(p, df)(左側確率を直接) |
旧TINV関数で作られたブックは、計算結果を変えないかぎり書き換える必要はありません。
新規で数式を作るときは、片側ならT.INV、両側ならT.INV.2Tを使い分けるのがおすすめです。
関連関数の一覧
| 関数 | 説明 |
|---|---|
| T.INV | t分布の逆関数(左片側)。確率からt値を逆算 |
| T.INV.2T | t分布の逆関数(両側)。両側確率からt値を逆算 |
| T.DIST | t分布の左片側確率または確率密度 |
| T.DIST.2T | t分布の両側確率 |
| T.DIST.RT | t分布の右片側確率 |
| T.TEST | t検定のp値を直接計算 |
| TINV | T.INV.2Tの旧名(仕様は両側確率) |
| AVERAGE | 標本平均(信頼区間の計算で使う) |
| STDEV.S | 標本標準偏差(信頼区間の計算で使う) |
よくあるエラーと対処法
#NUM!エラー
T.INV関数で最も多いエラーです。
原因は2パターンあります。
| 原因 | 対策 |
|---|---|
| 確率が0以下または1以上 | 0 < 確率 < 1 の範囲に収める |
| 自由度が1未満(0や負の値) | 自由度は1以上の整数にする |
=T.INV(0, 15) → #NUM!エラー(確率が0)
=T.INV(1, 15) → #NUM!エラー(確率が1)
=T.INV(0.95, 0) → #NUM!エラー(自由度0)
=T.INV(0.95, -5) → #NUM!エラー(自由度が負)
=T.INV(0.95, 15) → 正常(約1.7531)
「有意水準5%」を直接渡してしまうケースに注意してください。
片側検定の右側臨界値なら=T.INV(0.95, df)、左側なら=T.INV(0.05, df)です。
#VALUE!エラー
引数に数値以外の文字列を指定すると発生します。
=T.INV("abc", 15) → #VALUE!エラー
セル参照を使う場合は、参照先に数値が入っているかを確認しましょう。
パーセント表示のセル(例: 95%)を渡すと、内部的には0.95として扱われるので問題ありません。
#NAME?エラー
Excel 2007以前では T.INV を認識できず発生します。
ピリオドを含む関数名に対応していないためです。
=T.INV(0.95, 15) → #NAME?エラー(Excel 2007以前)
このときは旧TINV関数を使うことになりますが、旧TINVは両側確率を渡す仕様なので注意してください。
左側確率0.95に相当する両側確率は0.10なので、=TINV(0.10, 15)と書きます。
新規でファイルを作るなら、Excelを2010以降にアップデートするほうが長期的に楽です。
TIP
T.INV関数の引数は2つだけ(確率, 自由度)なので、3つ目の引数は書かないように注意してください。
T.DIST関数の感覚で「関数形式(TRUE/FALSE)」を足すと#VALUE!エラーになります。
まとめ
ExcelのT.INV関数は、t分布の左側確率からt値(臨界値)を逆算する関数です。
この記事のポイント
- 構文は
=T.INV(確率, 自由度)の2つの引数だけ - 確率は0より大きく1より小さい値を渡す。0や1はエラーになる
- 第1引数は「左側確率」。片側検定の右側臨界値は
=T.INV(1 - α, df) - T.DIST関数と互いに逆関数の関係。「t値 ⇄ 確率」の双方向計算ができる
- 両側検定や両側信頼区間にはT.INV.2T関数を使うと楽
- 等価式
T.INV.2T(α, df) = T.INV(1 - α/2, df)を覚えておくと便利 - 自由度は1以上の整数。1標本t検定なら「サンプル数 – 1」で求める
- 旧TINV関数は両側確率の仕様(=T.INV.2Tと同じ)。新規ではT.INVまたはT.INV.2Tを使い分けるのがおすすめ
T.INV関数の使い方がわかったら、以下の関数もあわせて覚えてみてください。
データ分析の幅が広がりますよ。
