「先月の売上のバラつきはどれくらい?」「テストの平均点は同じだけど、点数のばらけ方は?」――そんなデータの 散らばり具合 を一発で測れるのが STDEV関数 です。
ただ、Excelには似た名前の関数が複数あります。STDEV、STDEV.S、STDEV.P、STDEVA…どれを選べばいいのか迷う方も多いはず。実は 「手元にあるのが全データか、それとも一部のサンプルか」 で答えが変わります。
この記事では、STDEV関数の構文から、標本と母集団の違い、月次売上のバラつき計算の実例、関連関数の使い分け早見表、新関数STDEV.Sへの移行方法までをまとめて整理します。
ExcelのSTDEV関数とは?
ExcelのSTDEV関数(読み方:スタンダードディビエーション)は、標本データに基づいて標準偏差を推定する関数です。関数名は「STandard DEViation(標準偏差)」の略です。
ざっくり言うと、データのばらけ具合を1つの数値で表してくれる関数です。標準偏差が大きいほどデータのばらつきが大きく、小さいほど平均値の周りにきれいに集まっていることを意味します。
ここで重要なのが、STDEV関数は 「標本」を前提にしている という点です。つまり「全国民の身長」のような全データ(母集団)ではなく、「無作為に選んだ100人の身長」のような一部のサンプル(標本)から、母集団全体の標準偏差を推定する目的で使います。
そのため計算式は、よく知られている分散の式の分母を n(データ数)ではなく n-1 にしています。これを 不偏分散 と呼びます。
s = √(Σ(xi - x̄)² / (n-1))
なぜ n-1 で割るのかは、ざっくり言えば「標本だけで母集団の分散を推定すると、どうしても少なめに出やすい。そこで n-1 で割って少しだけ大きく補正する」というイメージです。実務でデータ分析を行うとき、手元にあるのはたいてい全データではなく標本なので、n-1法(STDEV)の方が安全な選択肢になります。
STDEV関数は、Excel 2007以前から提供されている 旧式の関数です。Excel 2010以降では「互換性関数」のグループに分類されています。後継として STDEV.S関数(ドット入り)が用意されていますが、STDEV関数も後方互換性のために引き続き使えます。
NOTE
「互換性関数」は古いブックでも問題なく動くように維持されている関数群です。新規作成のワークブックでは新関数(STDEV.S)が推奨されますが、既存のテンプレートやマクロでSTDEVを見かけても、計算結果は新関数とまったく同じです。
STDEV関数の書き方(構文と引数)
STDEV関数の構文は次のとおりです。
=STDEV(number1, [number2], ...)
引数は数値または範囲を指定し、最大255個まで渡せます。
| 引数 | 必須 | 説明 |
|---|---|---|
| number1 | 必須 | 標準偏差を求めたい1つ目の値または範囲 |
| number2, … | 任意 | 2つ目以降の値または範囲(最大255個) |
戻り値は0以上の実数で、データのばらつき具合を表す標準偏差です。
空白セル・論理値・文字列の扱い
STDEV関数は、引数として渡された範囲のうち 空白セル・論理値(TRUE/FALSE)・文字列・エラー値を無視 して計算します。空欄やラベルが混じっていても勝手に飛ばしてくれるので、実務での扱いは楽です。
ただし、論理値や文字列の「0/1」も計算に含めたい という特殊な場合は、後述するSTDEVA関数を使います。たとえばアンケートで「はい/いいえ」を1/0として扱いたいケースなどです。
実務例1:月次売上のバラつきを計算する
ある店舗の月次売上(万円)のサンプルデータで、年間のばらつきを計算してみます。
| 月 | 売上(万円) |
|---|---|
| 1月 | 320 |
| 2月 | 280 |
| 3月 | 410 |
| 4月 | 360 |
| 5月 | 390 |
| 6月 | 340 |
| 7月 | 300 |
| 8月 | 250 |
| 9月 | 380 |
| 10月 | 420 |
| 11月 | 460 |
| 12月 | 510 |
売上データが B2:B13 に入っているとします。年間のバラつき(標本標準偏差)は次の式で計算します。
=STDEV(B2:B13)
=AVERAGE(B2:B13)
このサンプルでは、平均は約368万円、標準偏差はおよそ75万円となります。つまり「平均368万円に対して、月によっておおむね±75万円ほどブレている」と読み取れます。
標準偏差をどう活かすか
標準偏差そのものを単独で見るより、変動係数(標準偏差÷平均) に直すと比較がしやすくなります。
=STDEV(B2:B13)/AVERAGE(B2:B13)
このサンプルでは約0.20(20%)となります。「平均に対して20%くらいの変動幅がある」と表現できれば、店舗間や年間の比較もしやすくなります。
TIP
売上のバラつきが大きすぎる場合は、季節要因(年末商戦・夏枯れなど)が混じっている可能性があります。月別の前年同月比に直してから標準偏差を取ると、純粋な変動の大きさが見えてきます。
実務例2:テストの点数のばらつきを比較する
クラスAとクラスBで、同じテストの点数のバラつきを比べてみます。両クラスとも10人ずつのサンプルです。
| クラスA | クラスB |
|---|---|
| 70 | 65 |
| 72 | 80 |
| 68 | 90 |
| 75 | 55 |
| 71 | 70 |
| 73 | 85 |
| 69 | 50 |
| 74 | 75 |
| 70 | 95 |
| 78 | 60 |
クラスAが B2:B11、クラスBが C2:C11 に入っているとします。
=STDEV(B2:B11)
=STDEV(C2:C11)
このサンプルでは、クラスAの標準偏差はおよそ3.0、クラスBはおよそ15.5 となります。両クラスの平均点は同じ72点くらいですが、クラスBの方が圧倒的にバラついている(できる子とできない子の差が大きい)と一目でわかります。
平均だけ見ると同じクラスでも、標準偏差を見れば指導方針の違いが必要なことがすぐ判別できる、というのが標準偏差の威力です。
STDEV.S・STDEV.P・STDEVAの使い分け早見表
Excelには標準偏差を計算する関数がいくつかあります。混同しやすいので一覧で整理しておきます。
| 関数 | 対象 | 計算式 | 文字列・論理値 | 用途 |
|---|---|---|---|---|
| STDEV | 標本(旧) | n-1法 | 無視 | 互換目的(旧ブックの維持) |
| STDEV.S | 標本(新) | n-1法 | 無視 | 通常はこれ(新規作成の推奨) |
| STDEV.P | 母集団全体 | n法 | 無視 | 全データが手元にある場合 |
| STDEVA | 標本 | n-1法 | TRUEを1、FALSE/文字列を0として計算 | 論理値・文字列を含めたい特殊ケース |
| STDEVP | 母集団全体(旧) | n法 | 無視 | STDEV.Pの旧互換版 |
「標本」と「母集団」の見分け方
迷ったら次のように考えると判断できます。
- 手元のデータは全体の一部か? → 標本(STDEV / STDEV.S)
- 手元のデータが調べたい対象のすべてか? → 母集団(STDEV.P / STDEVP)
たとえば、全国の高校3年生から100人を選んで体力テストの結果を分析する場合、その100人は標本なので STDEV / STDEV.S を使います。一方、自社の正社員50人全員の年収データを分析するなら、それが対象のすべてなので STDEV.P を使います。
TIP
実務では、調べたい対象「全員」のデータが手に入ることはまれです。アンケート回答者は「回答してくれた人の集合」というサンプルですし、過去の売上データも「これからの店舗運営」を考えれば未来データの一部です。迷ったら標本(STDEV.S)を選んでおくのが安全 です。
STDEV.S関数(新関数)への移行方法
Excel 2010以降では、後継の STDEV.S関数(ドット入り)が用意されています。
| 項目 | STDEV | STDEV.S |
|---|---|---|
| 導入時期 | Excel 2007以前から | Excel 2010以降 |
| 構文 | STDEV(number1, [number2], …) | STDEV.S(number1, [number2], …) |
| 計算結果 | 同一 | 同一 |
| 関数の分類 | 互換性関数 | 統計関数 |
引数も計算式も完全に同じです。次の2つの数式は、まったく同じ結果を返します。
=STDEV(B2:B13)
=STDEV.S(B2:B13)
使い分けの実務指針
- 古いExcel環境(2007以前)と共有する → STDEV
- 自分専用または新しい環境で使う → STDEV.S
- 既存ブックの数式を継承する → そのまま変更不要
Microsoft公式は新関数(STDEV.S)を推奨していますが、STDEVが将来削除される予定もないので、安心して使えます。テンプレートを統一したい場合は、Excelの置換機能で STDEV( を STDEV.S( にまとめて変換するのが手軽です。
WARNING
置換時に「STDEVと前方一致するもの」をすべて変換すると、STDEVA・STDEVP も巻き込まれてしまいます。
STDEV(のように 直後の括弧まで含めて 検索すると安全です。
よくあるエラーと対処法
| エラー | 原因 | 対処法 |
|---|---|---|
#DIV/0! | データが1個以下しかない(n-1で0除算) | 最低2個以上のデータを指定する |
#VALUE! | 引数に直接渡した値が数値以外 | 数値を指定する。範囲指定なら文字列セルは自動で無視される |
#NUM! | 数値オーバーフロー(極端に大きい/小さい値) | データの単位を整える(円→万円など) |
#NAME? | 関数名のスペルミス | STDEV のスペルを再確認 |
特に多いのが、データが1個しかない範囲を指定して #DIV/0! エラーになるケースです。STDEVは n-1 で割る関係上、データ数が最低2個必要です。フィルタで絞り込んだ結果が1件だけになっていないか確認しましょう。
また、思った値より大きく出るときは「母集団のつもりが標本(n-1法)で計算してしまっている」可能性があります。手元のデータが全数なら STDEV.P を使ってください。
まとめ
ExcelのSTDEV関数は、標本データから母集団の標準偏差を推定できる便利な関数です。要点を整理すると次のとおりです。
- 構文:
=STDEV(number1, [number2], ...) - n-1法(不偏分散) で標本標準偏差を計算する
- 空白セル・論理値・文字列・エラー値は無視 される
- 論理値・文字列も含めたい場合は STDEVA を使う
- 全数データ(母集団)の標準偏差なら STDEV.P を使う
- 新関数 STDEV.S と計算結果は完全に同一。新規ブックでは STDEV.S を推奨
- 迷ったら STDEV / STDEV.S(標本標準偏差) を選ぶのが安全
売上のバラつき分析、テスト点数の分散比較、品質管理での寸法ばらつき測定など、データの散らばり具合を見たいあらゆる場面で活躍します。平均だけでは見えない「データの個性」を浮かび上がらせる、最も基本的で強力な関数のひとつです。
合わせて STDEVP関数 を覚えておけば、標本と母集団の使い分けに自信が持てるようになります。
