国庫短期証券(T-Bill)は割引価格で発行されます。そのため通常は「割引利回り」で利回りが表示されます。しかしこの表示方法は、利付債と並べて比較するときに不便です。
そこで登場するのが ExcelのTBILLEQ関数です。TBILLEQを使えば、T-Billの割引利回りを債券換算利回り(BEY: Bond Equivalent Yield)に変換できます。BEYなら利付国債や社債と同じ尺度で比べられますよ。
この記事では、TBILLEQ関数の構文・引数・計算例を解説します。TBILLPRICE・TBILLYIELD関数との使い分けや、割引利回りとBEYの違いも計算式の意味から紹介しますね。
ExcelのTBILLEQ関数とは?
ExcelのTBILLEQ関数(読み方:ティービル・イー・キュー)は財務関数の一つです。米国財務省短期証券(T-Bill)の債券換算利回り(BEY)を、割引率から計算して返します。
関数名は「T-Bill(米国短期国債)」と「EQ(Equivalent=同等の)」を組み合わせたものです。つまり「T-Billを利付債と同等の尺度で評価するための利回り」を返す関数ですね。
割引利回りと債券換算利回り(BEY)の違い
T-Billは額面より安い価格で発行され、満期に額面で償還される割引証券です。利息は表面上ゼロですが、買値と償還額の差が実質的な利息になります。
この「割引による利息」を年率で表す方法には2種類あります。
- 割引利回り(discount yield): 額面ベース・360日基準の年率
- 短期金融市場での慣習表示
- 計算式:
(額面 − 価格) / 額面 × (360 / 残存日数)
- 債券換算利回り(BEY): 投下元本ベース・365日基準の年率
- 利付債と比較するときの標準指標
- 計算式:
(365 × 割引率) / (360 − 割引率 × 残存日数)
同じT-Billでも、BEYのほうが割引利回りより必ず大きい値になります。これは分母が「額面(=100)」から「実際に投下した元本(=価格)」に変わり、365日換算になるためです。
TBILLEQが必要な場面
- 短期国債(T-Bill)と利付国債を同じ利回りベースで比較したい
- 短期社債(CP)やコマーシャルペーパーとT-Billを並べて評価したい
- 運用報告書で「BEY」「債券換算利回り」と書かれた数値を再計算したい
- 入札結果の割引率を、ポートフォリオ管理用の利回りに換算したい
割引率から利回りを引き出す関数なので、入札結果や落札利率がインプットになる場面で活躍します。
TBILLEQ関数の構文と引数
TBILLEQ関数の構文は次のとおりです。
=TBILLEQ(settlement, maturity, discount)
引数は3つで、すべて必須です。同じT-Bill系のTBILLPRICE関数・TBILLYIELD関数と引数の数も並びも揃っています。
| 引数 | 必須/省略 | 意味 |
|---|---|---|
| settlement | 必須 | 受渡日(証券の購入が完了する日) |
| maturity | 必須 | 満期日(償還日)。settlement より後の日付 |
| discount | 必須 | T-Billの割引率(小数で指定。9.14%なら 0.0914) |
引数の日付制約
settlement と maturity の日付関係には次の制約があります。
settlement < maturity ≤ settlement + 365日
時系列で並べるとこうなります。
[受渡日] ―→ [満期日]
settlement maturity
(最大1暦年=365日以内)
つまり「受渡日から満期日までは1年以内」という制約です。これはT-Billの最長満期が52週間(約364日)であることに対応しています。1年を超えると #NUM! エラーになります。
discount引数の表記
discount はT-Billの割引率(年率)です。必ず小数で指定してください。
- 9.14%なら
0.0914 - 5%なら
0.05 - 0.5%なら
0.005
9.14 のようにパーセント整数値を入れると、計算結果が桁外れになります。実務でつまずきやすいポイントなので注意しましょう。
settlement と maturity の入力方法
日付は次のいずれかの形で渡します。
- DATE関数:
DATE(2026,5,7)のように年・月・日を直接指定 - セル参照: 日付形式のセルを参照
- 日付シリアル値:
"2026/5/7"などの文字列ではなく、Excel内部の日付シリアル値
文字列のまま渡すと #VALUE! エラーになるので、必ず日付として認識される形式で渡してください。
TBILLEQ関数の基本的な使い方
実例で動きを確認しましょう。
例1: Microsoft公式サンプル
Microsoft公式リファレンスのサンプル値です。
- 受渡日: 2008/3/31
- 満期日: 2008/6/1
- 割引率: 9.14%(0.0914)
=TBILLEQ(DATE(2008,3,31), DATE(2008,6,1), 0.0914)
結果は約 9.41%(0.09415)になります。割引利回り 9.14% に対して、債券換算利回りはやや高い 9.41% という関係ですね。
計算式での検算
DSM(受渡日から満期日までの日数)= 62日として、TBILLEQの計算式は次のとおりです。
TBILLEQ = (365 × discount) / (360 − discount × DSM)
= (365 × 0.0914) / (360 − 0.0914 × 62)
= 33.361 / 354.3332
≈ 0.09415
分子の365は「利付債と並べるための1年=365日換算」を表しています。分母の 360 − 割引率 × DSM は「実投下元本(=額面 − 割引額)」に対応します。
例2: 13週間(91日)T-Billの割引利回り変換
実務で頻出する13週間(91日)T-Billの例です。
- 受渡日: 2026/5/7
- 満期日: 2026/8/6(91日後)
- 割引率: 5%(0.05)
=TBILLEQ(DATE(2026,5,7), DATE(2026,8,6), 0.05)
結果は約 5.13%(0.05133)です。割引利回り 5.00% に対して、債券換算利回りは 5.13% になります。利付国債と並べて比較するときは、この 5.13% の値を使うことになります。
例3: セル参照を使った書き方
実務では引数をセル参照にすると、複数銘柄の利回り比較が楽になります。
| セル | 内容 | 値 |
|---|---|---|
| B2 | 受渡日 | 2026/5/7 |
| B3 | 満期日 | 2026/8/6 |
| B4 | 割引率 | 0.05 |
数式は =TBILLEQ(B2,B3,B4) です。割引率(B4)を変更すれば、債券換算利回りが連動して再計算されます。入札結果が確定するたびに、割引率を更新するだけで利回り評価が完了しますよ。
例4: 落札利率からBEYを一括計算
複数のT-Billを並べて、それぞれのBEYを横並びで計算する例です。
| 銘柄 | 受渡日 | 満期日 | 割引率 | BEY(=TBILLEQ) |
|---|---|---|---|---|
| 4週物 | 2026/5/7 | 2026/6/4 | 0.0480 | 4.86% |
| 13週物 | 2026/5/7 | 2026/8/6 | 0.0500 | 5.13% |
| 26週物 | 2026/5/7 | 2026/11/5 | 0.0510 | 5.30% |
| 52週物 | 2026/5/7 | 2027/5/6 | 0.0515 | 5.43% |
各銘柄に TBILLEQ(受渡日, 満期日, 割引率) を入れるだけで、利付国債と並べられる利回り表が完成します。
TBILLEQ・TBILLPRICE・TBILLYIELDの使い分け
T-Bill系の関数3つは、入力と出力の組み合わせで役割が分かれています。
| 関数 | 入力 | 出力 |
|---|---|---|
| TBILLEQ | 割引率(discount) | 債券換算利回り(BEY) |
| TBILLPRICE | 割引率(discount) | 価格(額面100あたり) |
| TBILLYIELD | 価格(pr) | 利回り(年率) |
3関数の引数は最初の2つ(settlement, maturity)が共通で、第3引数だけが目的に応じて変わります。
TBILLPRICE との違い
TBILLPRICEは割引率から「価格」を計算します。一方TBILLEQは割引率から「利回り(BEY)」を計算します。
- TBILLPRICE: 入札結果から購入金額を見積もりたいとき
- TBILLEQ: 入札結果を利付債と並べて比較したいとき
両者は同じ割引率を入力にしますが、出力(価格 vs 利回り)が異なる関数です。
TBILLYIELD との違い
TBILLYIELDは「価格」から利回りを計算します。一方TBILLEQは「割引率」から利回りを計算します。
- TBILLYIELD: 流通市場で取引されているT-Billの価格から、現時点の利回りを逆算
- TBILLEQ: 入札時の割引率から、債券換算利回り(BEY)を計算
入力データが「価格」か「割引率」かで使い分けてください。
3関数を組み合わせた実務フロー
入札→価格算出→BEY換算という一連の流れは、3関数の組み合わせで完結します。
- 入札結果(割引率)から TBILLPRICE で購入価格を計算
- 同じ割引率から TBILLEQ で債券換算利回り(BEY)を計算
- 後日、流通市場の価格から TBILLYIELD で時価利回りを再計算
この3ステップで、発行から運用評価までの利回り計算がカバーできますよ。
関連する短期国債・割引証券関数の全体像
T-Bill以外の割引証券にも対応する関数があります。
| 関数 | 用途 |
|---|---|
| DISC | 割引証券の割引率を計算 |
| PRICEDISC | 割引証券の価格を計算 |
| YIELDDISC | 割引証券の年利回りを計算 |
| INTRATE | 投資全期間の金利を計算 |
| TBILLEQ | T-Billの債券換算利回り |
| TBILLPRICE | T-Billの価格 |
| TBILLYIELD | T-Billの利回り |
T-Bill系3関数は短期国債(1年以内)専用で、計算が簡略化されています。1年を超える割引証券にはYIELDDISC・PRICEDISC・DISCを使ってください。
利付債との比較にはYIELD関数も参考になります。
実務での活用例
短期国債の入札結果評価
財務省の国庫短期証券入札結果から、落札利率(割引率)を取得してBEYに変換するケースです。報道では割引利率で発表されますが、ポートフォリオ管理ではBEYで揃える必要があります。
入札のたびに割引率セルを更新すれば、TBILLEQが自動でBEYを算出してくれますよ。
CPとT-Billの利回り比較
短期社債(CP)は通常、利付ベースの利回りで表示されます。T-Billは割引利回りで表示されます。
このまま並べると比較になりません。T-Bill側をTBILLEQでBEYに換算すれば、両者を同じ尺度で並べて評価できます。
短期金融市場ファンドの利回り検証
MMF(マネーマーケットファンド)の組入銘柄に短期国債が含まれる場合があります。運用報告書では多くの場合BEYで利回りが示されます。原資料の割引率からTBILLEQで再計算すれば、報告値の妥当性を確認できますよ。
銘柄スクリーニング
複数のT-Billを並べて利回り比較したいケースで便利です。割引率を入力するだけで、各銘柄のBEYが横並びで確認できます。利付国債と組み合わせたスクリーニングシートも簡単に作れますね。
よくあるエラーと対処法
#NUM! エラー
| 原因 | 対処法 |
|---|---|
| 日付順制約違反(settlement ≥ maturity) | settlement を maturity より前の日付にする |
| 満期日が受渡日から1年(365日)超 | TBILLEQはT-Bill専用で1年超は対応外。YIELDDISC関数を使う |
| discount が0以下 | 割引率は正の数を指定 |
| settlement や maturity が無効な日付 | DATE関数で正しい日付を指定 |
#VALUE! エラー
| 原因 | 対処法 |
|---|---|
| 日付引数が日付として認識されない | DATE関数で指定するか、日付形式のセルを参照する |
| discount に文字列が入っている | 数値(小数)に変換して指定 |
結果が異常値(極端に大きい・小さい値)になる場合
| 原因 | 対処法 |
|---|---|
| discount をパーセント整数値で指定(例: 9.14) | 必ず小数で指定(9.14%なら 0.0914) |
| settlement と maturity を逆に指定 | 受渡日が先・満期日が後の順で指定 |
| 残存日数が極端に短い・長い | T-Billの標準満期(4週〜52週)の範囲か確認 |
特に「1年超で #NUM!」は実務でつまずきやすいポイントです。1年超の割引証券を扱う場合は、YIELDDISC関数に切り替えてくださいね。
TBILLEQ関数を使えば、T-Billの割引利回りを利付債と同じ尺度(BEY)に揃えられます。短期国債の入札結果評価や、CPとの利回り比較で強力な味方になりますよ。割引率と日付の3引数だけで使えるシンプルな関数なので、財務関数の中でも覚えやすい1本です。
