「源泉徴収票を見ても、どの数字が何を意味しているのかよくわからない」。「給与台帳から手作業で転記していて、毎年金額が合わずに苦労している」。少人数の事業所で総務や経理を兼任していると、こうした疑問を同僚に聞きにくいまま抱えがちです。
結論から言うと、源泉徴収票で最初に押さえるべきは主要4欄の意味と計算の順番です。4欄とは「支払金額・給与所得控除後の金額・所得控除の額の合計額・源泉徴収税額」の4つ。この関係さえわかれば、票の読み方は一気にクリアになります。給与台帳がExcelで整っていれば、各欄への転記は VLOOKUP・SUMIF・ROUND といった基本関数で自動化できます。
この記事では、各欄の見方を表で整理したうえで、給与台帳から関数で転記する手順と「金額が合わない」典型パターンの対処法を解説します。Excelは中級(SUM・VLOOKUPが使える)レベルを想定しています。
対応バージョン: 本文の VLOOKUP・SUMIF・ROUND・INT・IFERROR は Excel Web版・365・2019 すべてで動作します。XLOOKUP は Excel 2021以降・365 限定のため、補足扱いとしています。
源泉徴収票とは|誰が作成しどう使うのか
源泉徴収票とは、1年間に支払った給与の総額と、そこから天引きした所得税額などをまとめた書類です。1月から12月までの実績を1枚に集約します。
発行義務があるのは会社側
源泉徴収票は、給与を支払った会社(事業主)が作成して従業員に交付する義務があります。従業員が自分で作るものではありません。少人数の事業所では、専任の経理担当がいなくても、総務や事務の担当者が年末調整とあわせて作成するケースがよくあります。
使う場面(確定申告・転職・ローン審査)
従業員が源泉徴収票を使う主な場面は次の3つです。
- 確定申告: 医療費控除や副業収入の申告などで、給与所得の証明として使います。確定申告まわりの実務は医療費控除の確定申告をExcelで管理するもあわせてどうぞ。
- 転職: 年の途中で転職した場合、前職の源泉徴収票を新しい勤務先に提出して合算してもらいます。
- ローン審査・賃貸契約: 収入証明として提出を求められます。
作成側としては、従業員がこれらの場面で困らないよう、正確な金額を記載することが大切です。
源泉徴収票の見方|4つの主要欄を押さえる
源泉徴収票にはたくさんの欄がありますが、全体像をつかむには次の4欄を順番に追うのが近道です。上から順に、年収から控除を引いて税額を求めていく流れになっています。
| 欄の名称 | 意味 | 計算の元になるもの |
|---|---|---|
| ① 支払金額 | 年間の給与・賞与・手当の合計(いわゆる年収)。社会保険料や所得税を引く前の総支払額 | 毎月の給与・賞与の総支給額 |
| ② 給与所得控除後の金額 | ①から給与所得控除を差し引いた金額(=給与所得) | ① − 給与所得控除(速算表で自動計算) |
| ③ 所得控除の額の合計額 | ②からさらに差し引ける各種控除の合計 | 社会保険料控除・生命保険料控除・基礎控除・扶養控除などの合計 |
| ④ 源泉徴収税額 | 年末調整後に確定した所得税・復興特別所得税の合計額 | 課税所得 × 税率(速算表)で算出した税額 |
順を追って見ていきましょう。
支払金額(年収の合計)
①支払金額は、1年間に支払った給与・賞与・各種手当の合計です。社会保険料や所得税を天引きする前の総額である点がポイントです。一般に「年収」と呼ばれるのはこの金額です。
賞与(ボーナス)も含めるのを忘れないようにしましょう。後述しますが、賞与の集計漏れは金額が合わない原因の常連です。
給与所得控除後の金額(自動計算される控除後の所得)
②給与所得控除後の金額は、①から「給与所得控除」を差し引いた金額です。給与所得控除は、会社員にとっての必要経費に相当する控除で、収入に応じて金額が決まります。
令和7年分(2025年12月実施の年末調整)からは速算表が改正されました。具体的には次のとおりです。
| 給与収入(年間) | 給与所得控除額の計算式 |
|---|---|
| 190万円以下 | 65万円(一律)※改正で55万円から引上げ |
| 190万円超 360万円以下 | 収入 × 30% + 8万円 |
| 360万円超 660万円以下 | 収入 × 20% + 44万円 |
| 660万円超 850万円以下 | 収入 × 10% + 110万円 |
| 850万円超 | 195万円(上限) |
たとえば支払金額が400万円なら、給与所得控除は「400万円 × 20% + 44万円 = 124万円」です。給与所得控除後の金額は「400万円 − 124万円 = 276万円」となります。
所得控除の額の合計額(年末調整で集計した控除合計)
③所得控除の額の合計額は、②からさらに差し引ける控除の合計です。代表的なものは次のとおりです。
- 社会保険料控除(健康保険・厚生年金・雇用保険の本人負担分など)
- 生命保険料控除・地震保険料控除
- 配偶者控除・配偶者特別控除・扶養控除
- 障害者控除・寡婦控除・ひとり親控除・勤労学生控除
- 基礎控除
年末調整で従業員が提出した「保険料控除申告書」などに記載された金額が集計され、ここに入ります。
源泉徴収税額(実際に源泉徴収した所得税額)
④源泉徴収税額は、年末調整後に確定した所得税と復興特別所得税の合計です。②から③を引いた「課税給与所得金額」に税率をかけて求めます。計算の流れは後述の「年末調整結果との突合チェック」で具体的に確認します。
社会保険料等の金額(健保・厚生年金・雇用保険の合計)
主要4欄に加えて押さえておきたいのが「社会保険料等の金額」欄です。給与・賞与から天引きした健康保険料・厚生年金保険料・雇用保険料の年間合計額が記載されます。従業員が申告書で申告した生計を同じくする家族の社会保険料(国民年金等)も含まれます。
重要なのは、従業員の負担分のみが対象で、会社が負担する事業主負担分は含めないという点です。これも金額が合わない原因になりやすいので、後ほど詳しく扱います。
給与台帳→源泉徴収票をExcel関数で転記する手順
ここからが本題です。給与台帳から源泉徴収票の各欄へ関数で転記する手順を見ていきます。テンプレートを配布するのではなく、どんな考え方でセル式を組むかを解説しますので、自分のシートに合わせて応用してください。
その前に「そもそもExcelで作ってよいのか」を確認しておきましょう。従業員数が5〜20名程度で給与体系がシンプル(毎月の給与+賞与で複雑な手当が少ない)な事業所なら、Excelでの集計・転記は十分に現実的です。テンプレートに数字を入れるだけのソフトと違い「なぜこの金額になるのか」を関数式で追えるため、ミスに気づきやすいのもメリットです。一方で、従業員数が増える・住民税の特別徴収(給与支払報告書の電子提出など)の連携が発生する・雇用形態が多様で控除パターンが複雑、といった条件が重なると、Excel手作業はミスのリスクとメンテナンスの手間が増えます。その場合は給与計算ソフトの導入を検討するほうが安全です。Excelは「人数が少なく、計算の中身を自分で把握しておきたい事業所」に向いた選択肢だと考えてください。
入力シートの列設計(給与台帳の想定レイアウト)
まず、給与台帳を次のようなレイアウトで持っているとします。1行が「ある従業員のある月の支給」を表す形です。
| 列 | 項目 | 例 |
|---|---|---|
| A | 社員番号 | 1001 |
| B | 氏名 | 山田太郎 |
| C | 支給月 | 2025/1 |
| D | 総支給額 | 280000 |
| E | 健康保険料(本人分) | 14000 |
| F | 厚生年金保険料(本人分) | 25000 |
| G | 雇用保険料(本人分) | 1680 |
| H | 源泉徴収税額(月次) | 5200 |
このレイアウトなら、社員番号をキーにして1年分を集計できます。賞与も同じ表に1行として追加しておけば、後の集計式でまとめて拾えます。
支払金額の集計式(SUMIF)
①支払金額は、対象社員の総支給額(D列)を1年分合計するだけです。社員番号で絞り込むので SUMIF が最適です。社員番号を K2 に入れたとして、次のように書きます。
=SUMIF(A:A, K2, D:D)
「A列が K2 と一致する行の、D列の合計」が求まります。賞与の行も同じ社員番号で入力してあれば、自動的に合算されます。月別集計の考え方はSUMIFの使い方(Excel)もあわせてどうぞ。
社会保険料等の金額の転記式(VLOOKUP / INDEX+MATCH)
「社会保険料等の金額」欄は、本人負担分(E・F・G列)の年間合計です。SUMIF を3つ足すか、SUMIFSでまとめます。
=SUMIF(A:A, K2, E:E) + SUMIF(A:A, K2, F:F) + SUMIF(A:A, K2, G:G)
従業員の氏名や扶養人数など「台帳の固定情報を1件だけ引いてくる」場面では VLOOKUP が便利です。社員マスタ(A列=社員番号、B列=氏名)から氏名を引くなら次のとおりです。
=VLOOKUP(K2, マスタ!A:B, 2, FALSE)
最後の FALSE は完全一致の指定で、社員番号の検索では必ず付けます。VLOOKUPの基本はVLOOKUPの使い方(Excel)で確認できます。
検索キーがマスタの左端列にない場合や、列の挿入で番号がずれるのを避けたい場合は INDEX+MATCH が便利です。
=INDEX(マスタ!B:B, MATCH(K2, マスタ!A:A, 0))
どちらを使うか迷ったらVLOOKUP・XLOOKUP・INDEX+MATCHの比較を参考にしてください。Excel 2021以降・365なら、より直感的な XLOOKUP も使えます。
=XLOOKUP(K2, マスタ!A:A, マスタ!B:B)
源泉徴収税額の転記と端数処理(ROUND / INT)
④源泉徴収税額は、年末調整で確定した税額を転記します。計算過程では端数処理が何度も登場するため、関数で明示的に丸めるのが安全です。
たとえば、課税給与所得金額を1,000円未満切り捨てにするには INT を使います。
=INT(課税所得 / 1000) * 1000
年調年税額の100円未満切り捨ても同じ考え方です。
=INT(年税額 / 100) * 100
四捨五入が必要な場面では ROUND を使います。小数を含む計算結果を1円単位に四捨五入するなら次のとおりです。
=ROUND(計算結果, 0)
切り捨てと四捨五入を混同すると金額がずれます。切り捨ては INT、四捨五入は ROUND と使い分けてください。端数処理の詳しい挙動はROUND関数の使い方(Excel)が参考になります。
エラー対策(IFERROR でゼロ件でも安全に)
VLOOKUPで該当する社員番号が見つからないと #N/A エラーが出ます。年の途中入社で台帳に行がない、社員番号の打ち間違いといったケースで起こります。そのまま放置すると合計式まで巻き込まれて崩れるので、IFERROR で包んでおきましょう。
=IFERROR(VLOOKUP(K2, マスタ!A:B, 2, FALSE), "")
見つからない場合は空欄になり、シート全体が壊れません。ただし「本来あるべき行が無いのに空欄で済ませてしまう」と転記漏れに気づけなくなります。空欄を 0 ではなく目立つ表示(たとえば "要確認")にしておくのも一つの手です。IFERROR を含むエラー処理関数の使い分けはIF・IFS・IFERROR・IFNAの使い分けで整理しています。
年末調整結果との突合チェック
転記が終わったら、計算した税額が正しいかを年末調整の流れに沿って突合します。
年調年税額と源泉徴収税額の照合
年末調整の計算は、次の順番で進みます。
- ①支払金額(年収)
- ▲給与所得控除 → ②給与所得控除後の金額
- ▲所得控除の合計 → 課税給与所得金額(1,000円未満切り捨て)
- 課税所得 × 税率 − 控除額 = 算出所得税額(速算表を使用)
- 算出所得税額 × 102.1%(復興特別所得税2.1%加算)= 年調年税額(100円未満切り捨て)
- ▲税額控除(住宅借入金等特別控除など) = ④源泉徴収税額
ステップ4で使う所得税の速算表は次のとおりです。
| 課税給与所得金額(A) | 税率(B) | 控除額(C) |
|---|---|---|
| 195万円未満 | 5% | 0円 |
| 195万円以上 330万円未満 | 10% | 97,500円 |
| 330万円以上 695万円未満 | 20% | 427,500円 |
| 695万円以上 900万円未満 | 23% | 636,000円 |
| 900万円以上 1,800万円未満 | 33% | 1,536,000円 |
| 1,800万円以上 4,000万円未満 | 40% | 2,796,000円 |
| 4,000万円以上 | 45% | 4,796,000円 |
具体例で確認しましょう。課税給与所得金額が250万円だったとします。速算表では「195万円以上330万円未満」なので税率10%・控除額97,500円です。
- 算出所得税額 = 2,500,000 × 10% − 97,500 = 152,500円
- 年調年税額 = 152,500 × 102.1% = 155,702.5円 → 100円未満切り捨てで 155,700円
この155,700円が、税額控除がなければ④源泉徴収税額になります。Excelでこの流れを再現するなら、ステップ5は次のように書けます。
=INT(算出所得税額 * 1.021 / 100) * 100
毎月の源泉徴収で集めた税額の合計とこの年調年税額を比べ、差額が還付(払いすぎ)か追加徴収(不足)かを判定します。
差額が生じた場合の確認ポイント
年調年税額と毎月の源泉徴収合計に大きな差が出た場合は、次を順に確認してください。
- 給与所得控除を令和7年分の新しい速算表(190万円以下65万円)で計算しているか
- 所得控除の合計に控除の入れ忘れ・重複がないか
- 端数処理(1,000円未満切り捨て・100円未満切り捨て)を正しく行っているか
原因が絞り込めない場合は、次のセクションの典型パターンに当てはまっていないかを見てみましょう。
金額が合わない3パターンと対処法
実務でよく起きる「金額が合わない」3パターンです。原因がわかれば、どこを直せばよいかがすぐ見えます。
① 端数処理のズレ(円未満切り捨てルール)
最も多いのが端数処理の取り違えです。種類ごとに丸め方とタイミングが異なります。
- 社会保険料の月次計算: 50銭以下は切り捨て・50銭超は切り上げ(単純な四捨五入ではありません)
- 課税給与所得金額: 1,000円未満切り捨て
- 年調年税額: 100円未満切り捨て
Excelで手計算するとき、これらをすべて ROUND(四捨五入)で処理してしまうと、わずかな差が積み上がって最終的な税額がずれます。切り捨ては INT、四捨五入は ROUND と使い分けてください。社会保険料の50銭基準のように四捨五入と異なる丸めが必要な箇所は、計算式を分けて明示的に処理するのが安全です。
② 社会保険料に事業主負担分が混入している
「社会保険料等の金額」欄に入れてよいのは従業員の負担分のみです。健康保険料や厚生年金保険料は会社と従業員が折半していますが、源泉徴収票に記載するのは従業員が負担した分だけです。会社負担分(事業主負担分)を誤って合算すると、金額が実際よりふくらんでしまいます。
賞与から天引きした社会保険料の集計漏れにも注意してください。賞与分を給与台帳の別の場所に記録していると、SUMIFの集計範囲から外れてしまうことがあります。賞与の行も給与と同じ列・同じ社員番号で入力し、集計に含まれているかを確認しましょう。
③ 年途中退職者の控除が誤って適用されている
年の途中で退職した従業員は、原則として会社では年末調整を行わず、本人が確定申告をします。源泉徴収票には在職期間中に支払った分だけを集計するのが正解です。
ありがちなミスは、退職者なのに1年分のつもりで計算してしまう、または在職していなかった月の控除まで適用してしまうケースです。SUMIFの集計範囲が退職後の月まで含んでいないか、対象期間を必ず確認してください。入社者も同様で、入社前の月のデータが混ざっていないかをチェックします。
なお、令和7年分は税制改正で給与所得控除が引き上げられています。基礎控除についても見直しがあるとされていますが、確定額は国税庁の最新資料で必ず確認してください。古い控除額のまま計算すると税額がずれる原因になります。
よくある質問(FAQ)
源泉徴収票はいつもらえる?
通常は、その年の年末調整が終わった後、12月の給与支払い時か翌年1月にかけて交付されます。退職した場合は、退職後1か月以内に交付するのが原則です。
前職分と合算する場合は?
年の途中で転職した人は、前職の源泉徴収票を新しい勤務先に提出します。新しい勤務先が前職分の支払金額・社会保険料・源泉徴収税額を合算して年末調整を行い、最終的な源泉徴収票を作成します。Excelで集計する場合は、前職分の金額を「前職」として給与台帳に1行追加し、SUMIFでまとめて拾えるようにしておくと管理が楽になります。
Excelで作った票は正式書類として使える?
記載すべき項目が正しく揃っていれば、Excelで作成した源泉徴収票も交付書類として使えます。重要なのは作成ツールではなく、国税庁の定める様式に沿って必要事項が正確に記載されていることです。住民税の給与支払報告書を電子提出する場合など、外部連携が必要な場面ではソフトのほうが効率的なこともあります。人数や運用に応じて判断してください。
まとめ
源泉徴収票は、主要4欄(①支払金額 → ②給与所得控除後の金額 → ③所得控除の額の合計額 → ④源泉徴収税額)を上から順に追えば、読み方も作り方も見えてきます。
- 給与台帳がExcelで整っていれば、支払金額や社会保険料は SUMIF で集計、固定情報は VLOOKUP / INDEX+MATCH で転記できる
- 端数処理は 切り捨ては INT・四捨五入は ROUND と明確に使い分ける
- 見つからない社員番号は IFERROR で安全に処理する
- 金額が合わないときは「端数処理のズレ」「事業主負担分の混入・賞与の集計漏れ」「年途中退職者の期間誤り」の3パターンをまず疑う
少人数の事業所なら、計算の中身が見えるExcelでの管理は十分に実用的です。まずは自分の源泉徴収票で4欄の関係を確認し、慣れてきたら台帳からの転記式を組んでみてください。令和7年分は控除額の改正があるため、計算式を更新する際は国税庁の最新資料を必ず確認しましょう。
